SANDO BY WEMON PROJECTS

カフェでもあり、池上の情報も発信地

小田桐 奨さん(WEMON PROJECTS/LPACK.)運営チームの主要メンバー。美術家としての活動をしながらカフェの運営も。

背の高い植栽が日差しを和らげ、程よく自然光が注ぐカフェ。見回せば、カウンター席で作業に没頭する人、壁面ギャラリーを鑑賞しながらスタッフとの会話に花を咲かす人、テーブルを囲んで談笑する人、打ち合わせに励む人などさまざまな景色が目に入る。『SANDO BY WEMON PROJECTS(サンド バイ ゑもん プロジェクツ)』は、池上リノベーションプロジェクトの推進拠点として2019年にオープン。店名には、80年以上続いたパン屋の跡地に立ち、そこでは総菜パンが人気だったこと、池上本門寺の旧参道入り口で営まれていること、「2度、3度と立ち寄りたくなる場所を目指す」との思いもしかと込められている。

フレッシュサラダとバイエルンケージサンドセットはドリンク付きで1300円。
壁面ギャラリーの最新アートも見どころ。展示期間中のBGMにはアーティストが選曲したプレイリストが流れる。

個性を発揮しやすい場を作りコミュニケーションを活性化

店内床には旧池上駅舎で使われていた古材「えきもく」も活用。

「WEMON PROJECTS」というのは、小田桐奨さんと中嶋哲矢さんによるアーティストユニットの「LPACK.」と、建築士の敷浪一哉さんが共同で運営するプロジェクト。「WEMON」は、江戸時代頃まで男性の名前によく使われていた「右衛門」から来ている。「普段はなかなか他人の特技に気付けませんよね。だから、野菜に詳しい人を 『野菜ゑもん』 と呼ぶとか、それぞれの特技にちなんだニックネームで、わかりやすくタグ付けすればいいと思ったんです。そうすればみんな、わからないことが出てきたらあの人に聞けばいい、と考えるかもしれない。そういうコミュニケーションが始まりやすい仕掛けを、 この場所に作っているところです」

そう教えてくれたのは、カフェのオーナーでもある「コーヒーゑもん」の小田桐さん。彼が淹れるコロンビアがベースのオリジナルブレンドは、苦味と酸味のバランスがよく、後味がすっきりして飲みやすい。

ぐるりとキッチンを囲むように設置された長いカウンター席では、居合わせた客同士がスタッフを挟んで会話を始め、交流を深めるなんてこともあるそう。あるいは、カフェで行うイベントの打ち合わせをしていたら、偶然来店した常連が自然と会話に混じって思いつきを話し、そこからアイデアが膨らむことも。

本門寺通り商店街の入り口にあり、植栽が目印。

これからの池上を多方向から盛り上げる

フリーペーパー『HOT SANDO』。

 「WEMON PROJECTS」 が毎月刊行するフリーペーパー『HOT SANDO』やイラストマップは、界隈の情報がまとめられていて池上さんぽをより楽しくしてくれる。コーヒーを味わいながら、思い思いの時間を過ごせるのがうれしい。

珈琲豆やTシャツなどオリジナルグッズ販売も。

『SANDO BY WEMON PROJECTS』店舗詳細

住所:東京都大田区池上4-31-16/営業時間:10:00~18:00/定休日:火/アクセス:東急池上線池上駅から徒歩2分。

ノミガワスタジオ/ブックスタジオ

棚の数だけ個性あふれる本屋兼拠り所

輪に加わったりまた別の輪に移ったり、自然と会話が拡散していく。

『ブックスタジオ』 は池上の北側を流れる呑川のほとりにある本屋。本棚はボックスごとに店主 (棚主) が異なり、小さな本屋が軒を連ねるコミュニティのよう。普段店内はギャラリー兼イベントスペース 『ノミガワスタジオ』 として活用され、運営するのは同じ建物に入る設計事務所のスタジオテラとBaobab Design Company。店番は、本棚の店主たちが当番制で回す。接客の傍ら、イベントスペースでは展示やワークショップなど各自趣向を凝らした企画を同時進行。それぞれの個性が反映されるので、誰が店番に立つかによって店の雰囲気がガラっと変わるという。それが面白くて、当番じゃない日も来てしまう方も多いとか。ここに通うことが週末のルーティーンになっているという人も。

出店者は本の仕事をする人や本好き、アーティスト、お寺の住職など個性豊か。選書から店主を想像するのも楽しい。

常連も一見さんも一緒に緩やかな輪を育む

地元の小学生・佐瀬健太朗さんが1年生の時の自由研究をまとめた『かわる!いけがみ えき』は池上のベストセラーだ。

「みんなこの場所を大切にしてくれてます。決まったルールはありませんが、店番の人もそうじゃない人も、ここで起きることをすべて 〝自分ごと化〞 して考えています。お客さん同士も、スナックの常連客が初めて来た人に席を譲るみたいに自然と気を使い合ってる(笑)」

そう話すBaobab Design Companyのアベさんは感慨深げだ。参加型のシステムなのに全然押し付けがましく感じないのは、旗振り役が大げさに旗を振ったり声高に呼び込んだりしないから。「大々的に開いているわけではないが、閉じていない」。この距離感がミソなのだ。

ドリンクも販売。クラフトコーラ600円。

みんながふわっとつながれる緩さがいい

イベントの企画には運営側は基本的に口を出さず、各店主に一任。「店主の皆さんは、普段会社勤めをしていたり、主婦をしていたり、何かを表現してアピールする職業ではない人が多いです。でも、表現することがないというわけではなくて、場所さえあればアイデアは出てくるし、見せ方も上手」 とスタジオテラの石井さん。そこから得る刺激も大きいそうで、「自由な発想を目の当たりにして、これを本業にする者としては目からウロコです」 。

棚から一冊手に取ると、店主から声をかけられた。池上を散歩しに来たと話すと、近くに住んでいるらしく、街のよいところをうれしそうに教えてくれた。そこにゆるっともう一人加わり、ますます盛り上がる。

「ゴーン!」。18時、池上本門寺の鐘が鳴ればそろそろ店じまい。名残惜しいが、続きはまた来週!

子供たちが集い、まるで駄菓子屋のようなアットホームさ。
のんびりした住宅地にあり、子供たちも安心して遊びにくる。(写真左から)石井秀幸さん・野田亜木子さん(スタジオテラ) 造園、街づくりなどランドスケープデザインの設計を行う事務所。アベ ケイスケさん (Baobab Design Company) エディトリアルデザインや動画配信業を普段の生業にしている。

『ノミガワスタジオ/ブックスタジオ』店舗詳細

住所:東京都大田区池上4-11-1 第5朝日ビル1F/営業時間:ブックスタジオは金・土の13:00~18:00に営業。/アクセス:池上駅から徒歩8分。

取材・文=信藤舞子 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2021年10月号より