近隣に住む女性が建物丸ごと買い取った!
昔ながらの個人商店が立ち並ぶ商店街で、ひときわレトロな看板がある。女の子のイラストが、手に持っているのは丸いパン(?)と、それに尾を振っている犬。「ポチも喜ぶハト屋のパン」のキャッチフレーズで長年親しまれてきた「ハト屋」の看板だ。
「この看板は、もう店名も消えかかっていたんですよ。女の子の洋服も消えていたから、こんな色合いだったんじゃないかな、と想像して塗り直しました」と店主の紙田和代さん。
「ハト屋」は2017年に二代目店主が亡くなり、後継者なくやむなく閉店。以来、店舗はそのままになっていた。近所に住んでいた紙田さんは、風雨にさらされていく店を見ているうちに「このまま取り壊されてしまうのはもったいない」と、思い切って建物ごと買い取った。
「昔のハト屋が持っていた風合いを残しながら、耐震補強や改装をしました」と紙田さん。
実は、地域活性化のプロでもあり、日中は都内にある都市計画コンサルタント会社の役員をつとめている。東日本大震災の被災地で、ボランティアでカフェを運営していたことも。昔から地域に根ざした交流の場を運営することが夢だったそう。
昔ながらのコッペパンがちょっとリッチに
パンは昔の「ハト屋」と同じくコッペパンのみ。プレーン150円と、いちごジャム、ピーナツクリーム(ともに180円)、あんバター200円の4種を販売している。ほか、看板にあるカステラは委託販売。パン作りは素人だったが、名人と呼ばれる友人に教えてもらい、試行錯誤して新生ハト屋のコッペパンを作り出した。
「店内から以前の仕入れ伝票が見つかったんですが、産地にこだわらない小麦粉主体の本当にシンプルな材料でつくっていたようでした」と紙田さん。
新生『ハト屋』のパンは、北海道産の強力粉や高級バターを使うなど材料にもこだわり、ふっくらもちもち。昔より、ちょっとリッチに仕上がった。「パン作りの修行はしていないので、素材で勝負ですよ」と紙田さんは謙遜する。
店内にカフェスペースがあるのも新生『ハト屋』の特徴。コッペパンのフレンチトーストや、ローストビーフ・レタスサンドなど、アレンジメニューも食べられる。ともにコーヒーや紅茶などドリンクが付いて350円という安さだ。
ローストビーフ・レタスサンドは、しっとり柔らかいコッペパンにシャキシャキのレタス、オリーブオイルが香る朝ごはんにぴったりのサンドイッチだ。
今後は後継者に店を任せていきたい
紙田さんは、実は大阪出身。東京では目黒区に住んでいたが、2005年に仕事がきっかけで京島の長屋に引っ越した。東西の違いあるが、生粋の下町っ子なのだ。
現在、平日の営業時間は朝6時30分から8時30分のみ。『ハト屋』の営業を終えてから会社に向かう、二足のわらじを履く生活を送っている。休日となれば、店にはひっきりなしにお客さんが訪れ、パンの注文がてら、おしゃべりが始まる。
今度の展開を聞いてみると「今後は今、手伝っていただいている方を後継者にして、お店を任せていきたいですね。夜は予約制で、一組様限定のバルにすることも考えているんですよ。3席だけの店ですが」と楽しそうだった。
新生『ハト屋』がこれからどんなお店になるのか、ますます目が離せない。
取材・文・撮影=新井鏡子