高速焙煎機で焙煎するこだわりのコーヒー
店頭にはモカやブラジルのほか、ブルーマウンテンなど様々な産地の豆が並び、入る前から香ばしいコーヒーの香りが漂ってくる。コーヒー好きなら、絶対に足を止めるほどのいい香り。
香りの出どころは店内にある大きな焙煎機、ジェットロースターだ。生豆を250℃という高温で一気に焙煎するため、ムラなく仕上げることができるそう。焙煎時間も短いので、好みに合わせて浅煎りでも深煎りでも調節して焙煎できる。この焙煎したて・挽きたてのコーヒーは、店内でも味わえる。
趣味が高じてコーヒー店のマスターに
店主の有泉要さんの前職は写植業。20年ほど前からパソコンが台頭し、仕事が少なくなる中、趣味だったコーヒーの世界に転職した。
「ずっと座り仕事でしたから、コーヒーが唯一の息抜きでした。師匠についたり、喫茶店で働いた経験はありません。独学です」と有泉さん。
市場内で店を開いたのは2015年。昭和レトロな喫茶店をイメージして本棚を自作し、写真集やコーヒーの関連書籍を置いた。見回してみれば、昭和歌謡のレコードや旧式のカセットプレーヤー、往年の名画のビデオテープなど昭和を思わせる品々がたくさん。これも有泉さんの趣味かと思いきや「ほとんどはお客さんが持ってきたものです。コンサートのチラシもお客さんに貼ってほしいと言われて貼っています」。
お客さんも昭和の趣味人が多いことがうかがえるエピソードだ。
コーヒーはドリップかサイフォンで淹れる
ハンドドリップで淹れるダークブレンドコーヒーや、今月のおすすめコーヒーは一杯250円。サイフォンで淹れるストレートコーヒーも350円というお手頃価格。有泉さんのおすすめは、しっかりとした苦味とコクが感じられるバリアラビカ神山だ。サイフォンでじっくり抽出すると、より旨味が引き出されるという。飲んでみると確かに苦く濃い味わい。流行りのフルーティーなコーヒーとは一線を画す、昭和の喫茶店の味だ。ミルクや砂糖を入れてもおいしい。
「コーヒーの味は好みですから、押し付けることはしません」と有泉さん。自分好みの味をリクエストしてみるのもいいかも知れない。コロンビアの最高級豆、エメラルドマウンテンは400円。コーヒー以外のメニューはない。
朝の散歩コースに立ち寄るお客さんも
お客さんは市場関係者よりも一般の人が多いとのこと。
「市場の近くを流れている海老川はいい散歩コースなんです。散歩の途中にコーヒーを飲みに立ち寄る人もいますよ。早朝にNHKのラジオ体操をやってから、ここに来る人もいます」と、有泉さんは話す。もちろん市場で食事をしたあと、食後のコーヒーを楽しみにくる人もいる。
ビーンズハウスの開店は朝の7時30分、食堂は朝5時から開いている店もある。土曜の朝に少し早起きして、市場で朝食を食べてから、ここで極上のコーヒーを飲む。そんな贅沢な朝時間も想像してしまう。喫煙可能なので、ゆっくりと紫煙を燻(くゆ)らすこともできる。
取材・文・撮影=新井鏡子