『The SG Club』が東京、いや日本を代表するバーたる所以とは?
茶道や華道のごとく、日本で独自に進化した“バー道”が海外のバーテンダーやバーラバーから注目を集めている。それというのも、日本人バーテンダーの活躍が目覚ましいから。その状況を知らしめるのが、イギリスの「ウィリアム・リード・ビジネス・メディア」が2016年に創設した、「Asia‘s 50 Best Bars」だ。これは、発展が著しいアジア全域のバーを対象に最高峰の50店舗を選出するアワードで、国内やアジアで活躍する日本人バーテンダーがいるバーが数々ランクインしている。
2020年5月には、コロナ禍のなか授賞式がオンラインで開催され、日本のバー6店が選出された。その最上位となる第9位にランクインしたのが、東京・渋谷『The SG Club』である。
しかも、ファウンダーであるバーテンダー・後閑信吾さんが手掛ける上海のバー3軒もランクイン。
2018年6月にオープンし、開店からまだ2年ほどながら、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。これまでにない試みを次々に展開する、目が離せないバーなのだ。
後閑さんは、2006年に渡米し、「Bacardi Legacy Cocktail Competition 2012」という大きな世界大会で優勝を果たした。2019年には「Asia’s 50 Best Bars」の個人に対する最高賞「Altos Bartenders’ Bartender」を受賞。 “バーインダストリーで最も影響力ある100人”を定めるBar World 100に選出される……と、華々しい功績を収めている。
たとえば「とりあえずの3杯」は?
こう書き連ねると、さぞハードルの高いバーなのではと思ってしまうが、『The SG Club』はそんな気兼ねなどやすやすと裏切ってくれる。
1階のバースペース「Guzzle」では、「ゴクゴク飲む」の意の通り、ラフな雰囲気のもと明るい時間から気軽に飲める。1杯目にふさわしいのは……後閑さんが薦めてくれたのは、たとえばこんなカクテル。
カクテル名は“WHAT’S ON TAP?(とりあえず生とジントニック)”。ビールを凍らせて水っぽい部分を除き、エキスの濃い部分を取っていったものを加えており、ビール風味のジントニックといった感じ。「薄い」のではなく「軽やか」で、そのバランスが絶妙なのだ。
続いてコカ・コーラのグラスで供されたのは、“RUM&COLA WITHOUT COLA”。コーラ無しのラム&コークってどういうこと?
「数年前、これまで秘伝と言われたコーラのレシピが流出したんです。そこに使われるスパイスをもとにオリジナルのコーラ的ジュースをつくり、ラムと合わせているんです」
おお……! 刺激は穏やかで、後味はじんわりスパイシー。コーラ(的オリジナルジュース)の味がやさしい分、お酒の味もしっかりわかる。
後閑さんいわく、「カクテルには3つの驚きがあることが大事なんです」。
1つ目はネーミングの面白さ、2つ目は見た目の新しさやユニークさ、そして3つ目は味が想像を超えるおいしさがあること。
メニューに目をやれば、“たこ焼きブラッディメアリー”“弁当オンザロック”なんてカクテルも並び、俄然興味を惹かれる。
オリジナル本格焼酎のカクテルも飲むぞ。
3杯目は、本格焼酎の蔵元と共同発売したオリジナルの「The SG Shochu」を使ったカクテルが登場した。ラインナップは「KOME」「IMO」「MUGI」の3種類。日本のみならず、世界のバーでカクテルに使われることを想定して酒質設計がなされている。
華麗なシェイクの後に注がれたのは、“COLD BREW MARTINI(コールドブリューマティーニ)”。ふくよかな香ばしさが広がる「MUGI」をベースに、水出しコーヒーと黒糖を合わせたカクテルだ。
「KOME」は華やかな吟醸香が、「IMO」は紫芋のフローラルな香りが漂う。3種のShochuは生(き)でも味わい深く、カクテルにすることでむしろそれぞれの特長が際立つよう。バーテンダーの手にかかれば、それぞれに特長が映えるカクテルに昇華するのが面白い。
バーは地下にも2階にもある。そしていつも新しい試みがある。
『The SG Club』のバーは1階の『Guzzle』のみならず。秘密めいた地下へ続く階段を降りると……。
その先には、しっとりと落ち着いた空間が広がっている。こちらは、『Sip』というバーで、「じっくり味わう」の通り、ゆっくり飲むことがコンセプト。『Guzzle』とはまた異なる雰囲気で、シチュエーションごとに使い分けられるのが新しい(もちろんハシゴでも!)。
現在はコロナ禍のなか、通常営業より席数を抑え、6月より始動した完全予約制の「The SG Shochu」カクテルとフードのペアリングコース「SG Airways」を提供している。
どこにも行けない今だからこそ、料理とカクテルで世界旅行を楽しんでもらえたら――後閑さんのそんな思いを叶えるべく生まれたもので、ヨーロッパ、アジア、中南米などの都市をテーマにしたカクテル×フードのペアリングを愉しめる。当初、期間限定で始めたが、これが連日満席と大好評。8月もコース内容を一新して継続する。
さらに、2階には、2019年1月に開店した会員制のシガーバー『Savor』がある。革張りのソファが配され、葛飾北斎の富獄三十六景が飾られている。ニューヨークと江戸が混在する空間だ(もともとは会員でなくとも26:00以降入店可能。2020年7月現在はコロナ禍のためイレギュラー営業をしており、営業中は誰でも利用可能)。
コロナ禍で日本中が大変な状況の中でも、バーはとかく苦境に立たされていた。営業の自粛や新しい生活様式への移行。これまでと同じように営むことはできない。
だが、カクテルペアリングをはじめ、『The SG Club』ではいつだってお客を愉しませるホスピタリティが満ちている。バーテンダーが発信するインスタライブに、プロ・アマ問わずに応募できるホームカクテルコンペティションの開催と、実際にバーに足を運ばずともこのバーとつながれる活動もしている。
後閑さんは言う。
「大変な状況に立たされた時ほど、バーテンダーのクリエイティビティが試されます。変容することでお客様だけでなく、自分たちも仕事に前向きになれるんです」
東京を代表するバーの、知恵と強みが垣間見えた。
取材・文=沼 由美子 撮影=門馬央典
『散歩の達人』7月号より加筆