本格的なイギリスの味を東京・中目黒で紹介するガストロパブ
『SWAN & LION Modern British Pub』は、東京にはまだ珍しいモダンなイギリス料理の店・ガストロパブだ。
店のオーナーは、イギリス出身のイアン・ギビンスさんと妻・山本貴緒(やまもときお)さん。イアンさんはイギリス西部の街・ブリストル出身で、15年ほど前に仕事で日本に住むようになった。生活する中でイアンさんが気づいたのは、東京には世界中の料理を出す店があるのに、イギリス料理の店はほとんどないことだった。
「もっとイギリスの味を知ってほしい」とイアンさん自ら調理したパイやジャムを屋外マーケットで販売することから始め、2015年には市ケ谷にテイクアウト専門店を開いた。
そしてイアンさんは「カジュアルな飲食店を開きたい」と考え、約9年後の2024年8月、中目黒に念願だったガストロパブ『SWAN & LION』をついにオープンしたのだった。
中身いろいろ! 焼きたてサクサク、本日のミートパイ
『SWAN & LION』の看板メニューのひとつは、ミートパイ。グランドメニューにもある本日のミートパイは、その日によって種類が異なるが、グレイビーソースベースとホワイトソースベースの2種類が定番。平日のランチではスープとサラダ、季節によってはサラダ2種類と一緒に提供される。
他にも豚肉の入ったコールド ポークパイや、パイ生地を使わず、ミートソース上にマッシュポテトを重ねて焼いたコテージパイ、スパイスの効いたイギリスカレーなども平日のランチメニューとして提供されている。
今回は、本格的なイギリスの味わいを楽しめる本日のミートパイをチョイス。種類はグレービーソースのビーフを選んだ。直径10センチで高さも5センチ近くあるビーフパイには、サラダとスープが添えられて1500円。
パイは専用の機械をイギリスから取り寄せて作っている。型にパイ生地を入れてセットして、ハンドルを下ろすと生地がカップのような形に。中身を入れてパイ生地で蓋をして型ごとオーブンに入れる。
焼き上がったパイはナイフを入れるとサクサクで、中からフィリングがとろっと流れ出る。この日のビーフパイは牛のかたまり肉入り。しっかり煮込まれて柔らかくて味わい深く、サクサクと香ばしいのパイ生地とのコントラストがたまらない。
キッチンで日々の調理を担当するのはシェフたちだが、イギリス人のヘッドシェフとイアンさん、貴緒さんが試行錯誤してレシピ開発していて、味噌や醤油を使うこともあるという。「日本人向けというよりは、私たちが届けたい味と言ったらいいでしょうか」と貴緒さん。ちなみに最近のロンドンのシェフたちは、和食に使う発酵調味料に注目していて、よくレシピに取り入れているのだとか。
日本と共通! イギリス料理でもふんだんに使う旬の食材
イアンさんが『SWAN & LION』のメニューを通して伝えたいことの一つは、イギリスでは季節の野菜をたくさん食べること。
「そういうイメージはあまりないと思いますが、実はイギリスの食事では、季節の野菜や果物を使うことを大切にしています」とイアンさん。
平日のランチメニューにもサラダやスープを添えていて、どちらも野菜をたっぷり使っている。この日のスープは、長ネギとじゃがいものポタージュにハーブのタラゴンで風味付け。サラダはキヌアとムング豆、ズッキーニ、小松菜、ビーツやかぼちゃ、ナスなど盛りだくさん。
他にもイギリスでよく食べられる白いにんじんのようなパースニップ、ジャムにすることが多いルバーブ、パセリの根っこなども愛知県や長野県の生産者から仕入れて、よりイギリスらしい味わいを作っている。
もちろん飲み物もイギリスのものをはじめバラエティ豊か。ビールはもちろん、イギリス伝統のアップルサイダー(アルコール入り)、紅茶、ニュージーランドのコーヒーなどを取り揃えている。
日曜日はイギリスの伝統的な食事、サンデーローストも提供。ローストビーフやミートパイ、ソーセージからメインを選べるコースメニューだ。
お店の場所に中目黒を選んだのは、2人が長く住んでいて、友人も多い街だからというが、「初めての人でも、誰が来ても心地よく、多国籍な雰囲気の中で少しでもスペシャルな体験をしてもらえたい」と山本さん。イアンさんも「Open to everybody。家族みんなで食事をしてもいいし、たくさんお酒を飲んでもいい」と、いろいろな利用方法を提案する。
明るい雰囲気の店内は、まるで外国に行ったような気分を味わえる。ガストロパブ『SWAN & LION』で、美食の国に変貌したイギリスの“今”を感じてみよう。
取材・撮影・文=野崎さおり