銀座の路地裏にひっそりと佇むラーメン店
華やかな銀座の路地裏に『らーめん 松富』はある。ちょっと通りかかって入るような立地ではなく、わざわざこの店を目指して足を運ぶ人でにぎわっているのだ。
広々とした店内はカウンター席のみ。それでも、同じ会社の同僚同士、上司と部下、カップルといった和やかな雰囲気で客席はいっぱいだ。
オープンは1996年。2013年に創業者から現在の店主・岩野努さんが引き継いだ。いくつかのラーメン店で修業を積み重ね、2000年から『らーめん 松富』で働き始めた岩野さん。
「もともと、いつかラーメン店をやりたいなって思ってたんです。『松富』の前に3店舗くらい、この店はスープをこういう炊き方してるんだとか、別の店ではまた違ったやり方なんだと働きながらラーメン作りを研究し、『松富』に入ったのが25歳くらいの時でしたね」。今では、長年店を支えるスタッフたちとともに創業の味を守り続けている。
ラーメンの味を聞いてみると、「先代が作った味をそのまま受け継いでます。基本のスープは醤油らーめんも担々麺もあさりらーめんも同じで、げん骨や北海道の日高昆布とか、いろいろ入ってます」。
それらを特注の鍋で長時間炊いて旨味たっぷりの基本スープが出来上がる。
飲んだ〆にも最適。身体にやさしいあさりらーめん
基本のスープが同じということで、どれを食べるか悩みどころだ。一番人気は醤油らーめんだが、売り切れ必至の1日20食限定のあさりらーめんを狙って訪れる人も多いとか。こだわりのあさりらーめんには、市場で毎朝仕入れる新鮮なあさりを使う。
食材を見ただけでおいしさが伝わってくる。早速、岩野店主に一杯お願いすると、手際よくあっという間に着丼だ。
あさりらーめんには、メインのあさりがたっぷり。そして、やや白濁したスープが丼一杯になみなみとつがれている。あさりの旨味はもちろん、トッピングの切り昆布が磯の香りを引き立てる。バターも添えられていて、溶けていくとまろやかなあさりバターの味わいに変化する。
殻を外して、あさりの身を頬張ろうと思ったら、レンゲ一杯では全然足りないくらいの量だ。スープと一緒に味わうと、あさりの風味がさらにアップ!
麺は、あさりらーめんには卵麺、醤油らーめんにはストレート細麺、つけ麺には太麺と3種類の麺を使い分けている。それではと卵麺を啜ってみると、つるつるっと食べやすい麺だ。
切り昆布もトッピングされて、あさりの旨味をさらに引き出してくれる。スープをしっかりまとった卵麺とも一緒に啜りやすい。あさりの旨味を余すところなく味わえるよう、細部までこだわりが詰まった一杯だ。
シュウマイや餃子も絶品! 夜はつまみも充実のラーメン居酒屋
ランチメニューはラーメンがメインだが、夕暮れともなると、夜メニューに切り替わる。銀座の夜を楽しむ人たちが重宝する、おつまみメニューが豊富だ。
おつまみメニューで、ひと際目を引くのが、餃子や春巻きなどの点心もの。中でも、「特許しうまい」という気になる一品がある。材料の配合や攪拌(かくはん)の仕方などで特許を取得したシュウマイだ。こだわりの食材を使ったしうまいは、豚肉に海老やカニなどの食感も残しつつ旨味たっぷりでボリューム満点。
「常連さんのお陰でコロナも乗り越えてきました。お客様のためにも、なおさらしっかりやんなきゃいけないと気を引き締めて毎日励んでいます」と岩野店主。受け継いだ味を守りつつ、少しずつ変えたり、新しいメニューを増やしたりしながら、この先10年、20年と『らーめん 松富』を続けていきたいと語る。
路地裏で丹念に作り続けるラーメンは、一度味わったら忘れられない味。また、訪れたい魅力あふれる店だ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代