お話を聞いたのは……豊島区都市整備部の皆さん
「消滅可能性都市」からの脱却を目指し、大改革へ
きっかけは、豊島区が23区で唯一の「消滅可能性都市」と指摘された2014年。
当時、区長だった故・高野之夫の大号令のもと、大規模な財政赤字をなんとか克服した矢先のことだった。区長はそのマイナスイメージを払拭すべく、待機児童ゼロなど女性に優しい政策を実行するとともに、「まち全体が舞台の誰もが主役になれる『国際アート・カルチャー都市』をつくる」と宣言した。文化によるまちづくりを目玉の一つにしたのだ。
その最初の一手は、庁舎の移転と旧庁舎跡地を「Hareza池袋」として開発する事業である。
「旧庁舎エリアはマンガ・アニメなどサブカルチャーの発信地としてにぎわっていましたが、ここに本格的な伝統芸能やアートの舞台が加わることで人の流れが広がり、東口に新たな活気が生まれました」と都市計画課の松田課長は説明する。
豊島区が次なる手段として手掛けたのは、南池袋公園、中池袋公園、池袋西口公園、イケ・サンパークの4公園を核としたまちづくりだった。
暗くて殺風景な広場だった公園にはキレイなトイレが整備され、園の周りをカフェなどの商店が囲むオシャレなスポットに。
「公園が周辺エリアの雰囲気に与える影響は非常に大きく、4公園の整備で池袋はかなりクリーンな印象の街になりました」と語るのは、道路整備課の小堤(おづつみ)課長。
ちなみに、真っ赤な電気バスとして今や池袋の名物になった「IKEBUS」はこのとき、再整備された4公園をはじめ、新たなにぎわいを生み出したエリアを回遊する手段として開業した交通網である。
東西関係なし⁉ 「もっと歩きたくなるまち」に
庁舎移転と旧庁舎跡地での「Hareza池袋」の開業をフェーズ1、公園整備と交通網の構築をフェーズ2ととらえるならば、フェーズ3として浮上してきたのが「東西のシンボルストリートを基軸としたまちづくり」構想だ。
東口のグリーン大通りと、西口のアゼリア通り+乱歩通り、および立教通りをシンボルストリートとして整備。エリア全体の回遊性をさらに高めて「もっと歩きたくなるまち」、すなわち「ウォーカブル都市・池袋」をつくり出す取り組みである。
公共空間の実証実験として官民協同で行った「IKEBUKURO LIVING LOOP」では、東口のグリーン大通りのライティングや植栽などを再整備し、座ってくつろげるストリートファニチャーを設置。街を家のようにとらえた「まちなかリビング」のイメージづくりを行ったのを皮切りに、スペシャルマーケットなどのイベントを開催。
実験にたずさわったサンシャインシティ まちづくり推進部の倉林真弓さんは「現在は、道行く人々が街路で当たり前のようにくつろぐ光景が日常になったことを実感しています」とふり返る。
IKEBUKURO LIVING LOOP
駅前からではなく周辺から開発が進む
将来的には池袋駅の線路上に東西を結ぶ2つのデッキを通し、駅から街への人の流れをさらに活性化させたり、東口駅前の自動車の流れを外側の道路(環状5の1号線)へと促したりなど、さまざまなまちづくり構想も進んでいるという。
「六本木や渋谷のように大手デベロッパー主導の場合、駅ビルや駅前から開発が進みますが、官民が手をとり合う池袋では、周辺から同時多発的に進むのが特徴でしょう」と再開発担当課の嶌田(しまだ)課長は語る。
うかうかしてはいられない。池袋大改造のスピードは加速中で、産官学でまちづくりを推進する「池袋エリアプラットフォーム」も設立(2023年6月現在参加80社・団体)。
たびたび訪れ、そのウォーカブルな変化を自分の目と脚で、散歩しながら確かめようではないか。
東西が交流し、活気が生まれる大改造計画
池袋駅南北デッキ
現在の池袋駅。
東口と西口で線路を隔てて分断され、移動するのは駅の地下通路がメイン。混雑し、スムーズとは言い難い。
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南北にデッキ整備。東西が駅上でつながる!
池袋駅の線路上に設置されるデッキのイメージ図。連絡性を高め、駅とまちの新たな人の流れを作り出す。
東口グリーン大通り広場化
現在の東口五差路付近から大改造!
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東口駅前の明治通りを遮断し、グリーン大通りを含めクルドサック(袋小路)化する計画だ。
南池袋二丁目C地区
新豊島区役所の向かいには2棟のタワーマンションが建設され、2026年に北街区、27年に南街区が竣工予定。
池袋駅西口地区
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西口には、サンクンガーデン(オープン地下道)を超高層ビル3棟が囲む、大規模な再開発事業が計画されている!
駅北側の地下通路ウイロードに続き、トイレ「ウイトピア」も美化された。
西池袋1丁目地区
今後、ロサ会館を含む西池袋1丁目地区の再開発も進行する。
西口の秘密的なスポットは、池袋1丁目を歩くとふいに出現。
老舗酒場が見つめる池袋
『酒庵 ウタリ』
創業は1960年。「ウタリ」とはアイヌ語で仲間を意味し、安い早いとは異なる本物の味と大人の語らいを求める客が集う。
「お客さんに恵まれたからですよ」と2代目の井口和夫さん。妻の節枝さんは長崎出身で「全国各地のおいしいものを“仲間”と召し上がって」と朗らかだ。
1979年に現在のビルに移転、バブル期にも実直な商いを続け、池袋が巨大ターミナル駅として成長するさまも見守ってきた。
近年、西池袋に中華系店舗が激増したことには戸惑いがあるが、「最初よりマナーは良くなったね。一番大事なのは誰にとってもいい街になること」と和夫さん。
西口の再開発も耳にしている。進化する街で、本当に大事なことは何か。極上の酒肴をいただきながら思いをはせたい。
『酒庵 ウタリ』店舗詳細
取材・文=ボブ内藤 撮影=新谷敏司 写真提供=豊島区
『散歩の達人』2023年7月号より