キャッチコピー、CM……オールドが纏うイメージ
突然ですが私は、オールドが好きです。愛称「ダルマ」で知られるウイスキーですね。味はもちろんのこと、やっぱりフォルムに惹かれます。ずんぐりとダルマのような胴体、首の付け根には、サントリーが寿屋だった時代を思い起こさせる「寿」の一字。昭和25年(1950)発売以来、70年以上の歴史を持つ銘柄です。
瓶を目にするたびに、寿屋宣伝部にかつて在籍していた作家・開高健による『「人間」らしくやりたいナ』のキャッチコピーが頭をよぎりますし、本人が後年、CMに出演したことも思い出します。そう、サントリーの酒のCMというのは、ことごとくおじさん心に刺さる作りをしているのですよ。出演者がまず刺さる。だって、大原麗子に田中裕子ですよ……(大原は「レッド」のCMですが)。そしてコピーも。「少し愛して 長く愛して」「恋は遠い日の花火ではない」、分かるような、分からないような、いや、分かる。一瞬、動揺する――なにか忘れていた切なさを思い出させる文句。
バックに流れるあのメロディも大いに関係していますね。小林亜星が作曲した「夜が来る」という曲です……とまあ、酒そのものの味から離れ、瓶のデザインのことばかりでもなく、背景情報を含め、この酒が纏うブランドイメージを読み取ることによって、昭和情緒好きの私は喜んでいるわけです。
この感じ、この稿を読んでくださるあなたなら、分かってもらえるんじゃないでしょうか。ただし、「現場」では意外にも、ぜんぜん違う受け止められ方をしている酒でもあるんです。
昭和そのものを生きた人々の偽らざる感慨
毎夜、この瓶がトクトクと注がれるスナックという現場で実際に目撃したこと。カウンターにずらりとオールドを並べる、私がよく行く店があるんですが、初めてのお客が、どの銘柄のボトルをおろすか決める場面――
何度も見たのは、
「角瓶じゃなくて、いまどきダルマ置いてるんだね~懐かしいなぁ~。でも昔ずいぶん飲んだし飲まされたから、今日は違うのにしとくよ(笑)」
えっ、と最初は驚きました。並ぶ漆黒の瓶を前にして、ぜんぜん惹かれていない世代がいるのです。もっぱら6-70代の人達ですね。まあでも考えてみればそうですよね。オールドは高度成長期からあるウイスキーです。「企業戦士」なんて言葉が生きていた時代から飲まれています。小津安二郎監督の「秋刀魚の味」にも上等な酒として出てきます。昭和30年代、国産ウイスキーとしてはまぶしい銘柄だったのです。
上司と部下、先輩後輩、仕事終わりに散々に飲んだ夜、頑張って働いたあとの上等なご褒美として、この酒がありました。あとから昭和を「発見」した昭和情緒好きの驚きなど入り込む余地はない、昭和そのものを生きた人々の偽らざる、なまの感慨が「もういいや~」なのです。
変わりゆくボトル棚をじっくり見ながら
ウイスキーやブランデーなど、昔は洋酒をありがたがる傾向があったと思いますが、いまはそうとも言えません。前述ベテラン世代の中には、ウイスキー自体にもはや「重さ」を感じてしまう向きもあって、「二日酔いしなくていいの~」と芋や麦など、近年流行りの乙類焼酎をライトな酒と捉えて、好む人も結構多いですね。
私は40代半ばですが、私くらいの世代から下が、どうもクラシカルな魅力を、オールドから感じるようなのです。こうしてハッキリ目に映るイメージや捉え方が分かれる面白いウイスキー、オールド。
社交飲食店のボトル棚って、多くの人が一定のイメージを持っているかもしれません。でも実際は時代とともにどんどん変わっていきます。ここ最近だと、「吉四六」「黒霧島「赤兎馬」などやっぱり焼酎が優勢に見えますし、今CMでやっているキリンのウイスキー「陸」とか、ジャパニーズ・ジン「翠(すい)」などが並ぶ風景も生まれてきました。
私は店々の棚をじっくり見ながら、「ああここは変わらない」とか「ここは大きくかわっていて面白い」などと思いながら、水割りを飲むのが好きなのです。
そして、多種多様な銘柄にだいぶ押され、なかなか見かけなくなったダルマのシルエットを見つけると、やっぱりうれしくなります。もちろんボトルを入れて、トクトク注いでもらって、水割りでやりながら、大原麗子さんや田中裕子さんも探しているんですが、こちらはまだ、まだお見掛けしませんね。
文・写真=フリート横田