国内外12カ所に展開するクリエイターたちの拠点
井の頭線神泉駅から住宅街を抜けて3分ほどなのだが、渋谷駅西口からてくてく5分ほど歩いたら道玄坂を登るのがキツくて体力不足を実感した。店にたどり着くまで残り5分、脳内で三三七拍子を何度もループさせながら坂を登りきり、国道246号線と合流したところにやっと『FabCafe Tokyo』を発見。よ、よかった……。
店に面した国道246号線の上には首都高3号線が走っていて、店の入り口を背にして立つと渋谷料金所が見える。
『FabCafe Tokyo』のオープンは2012年。東京を筆頭に現在は国内外に12カ所の拠点を持っている。中に入ると、ふつうのカフェのようだが展示物などは独創的なものばかりだ。
「ここではUVプリンターやレーザーカッターを使って自由にものづくりができるのですが、ふつうのカフェとしてのご利用もできますよ」というのは店長の石川悠さん。
「もともとクリエイターが集まる場所を作るという事業の一環としてオープンしました。ここを運営するのはデザインなどのコンサルティング会社で、イベントのディレクションとかプロデュースもやっているんですよ」。
なるほど、クリエイターが作品を作れる作業場であり、交流できるコミュニケーションの場でもあると。プロ・アマ問わず、誰でもOKという間口の広さがありがたい。
「もちろん、誰でも歓迎です! ただ、使用したいマシンがあるなら事前にWEBで予約をした方が確実です。ものづくりのノウハウがない方でもスタッフがフォローしますので安心してくださいね」。
店内ではメーカーやクリエイターなどによるさまざまなイベントや展示が行われている。「クリエイター同士がここで集まることで、新しいものが生まれるんじゃないかって思うんです」と、石川さんも今後の発展に期待を寄せている。
また、店内を丸ごと貸し出すこともあり、過去には入社式や内定式、ゲーマーのオフ会などで利用されたこともある。使い方次第でいろんな楽しみ方ができるのだ。
人気ロースターのコーヒーと『FabCafe Tokyo』の名物・マカロン
店内を見回すと、パソコンを開いている人が目立つ。店内はフリーWi-Fiや電源が設置されているので、ノマドワーカーの需要も高いという。実はココ、こだわりのコーヒーや食事とスイーツにも定評のあるカフェだったのだ。
スペシャルティコーヒーのラインナップは人気のロースタリーから豆を取り寄せている。取材当日は神楽坂の『AKHA AMA COFFEE』、栃木・小山の『Cafe FUJINUMA』、吉祥寺の『LIGHT UP COFFEE』などの豆が揃っていたが、その都度ロースタリーと豆を変えているそうだ。
「マカロンがコーヒーにぴったりですよ」と、石川さんにおすすめされたのでエアロプレスコーヒー660円とSrecetteマカロン1個320円をオーダーした。
石川さんがすぐさま豆を計量して挽くと、たちまちいい香りが漂ってきてうっとり。
「どうぞ〜」と、石川さんがコーヒーとマカロンを出してくれた。道玄坂は緩やかな坂道が続くので登り切るとなかなか疲れる。温かいコーヒーと甘いマカロンは、この程よい疲労感を緩和させるのにうってつけだ。
コーヒーは柑橘のような爽やかな香りがして、甘くほろ苦いフレーバーだ。まろやかな口当たりで、心地よい余韻が広がる。
マカロンをひとつかじってみると、ナッツの香ばしい香りがする。これは鉄観音と黒豆きな粉のマカロンだ。見た目はそっくりだが3つともフレーバーが違う。ほかはスパイスフロマージュ、エスプレッソとチョコレートだった。マカロンを久しぶりに食べたのだが、こんなに独創的でおいしかったっけ? どれも変わったペアリングでおいしかった。
石川さんによれば「マカロンは、パフェを予約販売することでも有名なSrecetteさんに作ってもらっているんです。不定期でフレーバーが変わるのでファンが多いんですよ」という。
また、「これも食べてみてください」と、石川さんおすすめのFabCafe Hidaの冷やしカヌレを提供してくれた。ひんやりとして、外はパリッ、中はふんわりとトロ〜リの中間の絶妙な弾力。程よい甘さがこれまたコーヒーにピッタリだ。
そのほかコーヒーのお供には、パティシエが店内で作るスイーツも好評だそう。特に人気というプリンは、土日のみの販売のため取材当日はお目にかかれなかった。残念。
およそ10分程度で完成。体験キットでキーチャームを作ってみた
しっかりパワーチャージしたところで、店内を見るとレーザーカッターやUVプリンターを使ってできる体験キットが販売されている。アクリル製のバレッタやバングル、革小物、フード用レーザーカッターでマカロンに刻印する、なんてものまである。せっかくだから何か作ってみたいな。ほら、さっき石川さんも「ものづくりのノウハウがない方でもスタッフがフォローしますので」って言ってくれたし。
いろいろ夢は広がるが、いちばん簡単そうなキーチャームのキット816円にチャレンジしてみた。2台のパブリックマシンは本来予約が入っていることが多い時間帯だったが、たまたま空いていたので使うことができてラッキー。
絵心のない筆者はサンプルと同じものを作ってみることにした。というか、石川さんに作ってもらったというのが正しいのだが。
ものの数分でキーチャーム本体ができ、革と金具を付ければ完成だ! えー、こんなに簡単にできるの⁉️ これはちょっと楽しいかも。
第一線で活躍するクリエイターやアーティストも創作しにやって来るこのカフェ。石川さんは「木材をカットしたり、木材に彫刻したりということもできます。今回はキットということで、こちらで素材などをすべて用意していますが、頻繁にご利用されている方は素材を持ち込んでご自分なりの作品作りをしていますよ」と語る。
レーザーカッターでのデザインの再現度も高いし、キットとはいえイチから自分で作品が作れることで達成感や充実感も得られた。今度はUVプリンターで何か作ってみようかな。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢