東中野の人気ラーメン店がリニューアル
東中野駅の東口から歩いて3分ほどの場所に、シンプルな青い看板が目印の『かしわぎ』がある。2017年のオープン以来、ラーメン店が立ち並ぶ中野エリアの中でも揺るがぬ人気を誇るラーメン店だ。
狭すぎず広すぎない、ほど良い広さの空間にカウンター席とテーブル席を配した店内は、大衆的で親しみやすい雰囲気。もともと寿司屋だったという店内は厨房とカウンター席の距離が近く、ラーメンを作るときのライブ感が楽しめる。
『かしわぎ』の2代目店主である佐々木さんは、もともと魚介豚骨のつけ麺店や淡麗系のラーメン店に勤める中で、ラーメンの“作る・食べる”両方の面白さに魅了されていった。そんな中、つけ麺店で共に働いていた仕事仲間が立ち上げた『かしわぎ』に誘われ参加することに。そして3年ほど前、店を受け継ぎ同店の店主となった。
ちなみに『かしわぎ』という店名は、「地元の人に愛されるように」という願いを込めて東中野の旧地名“柏木”から名づけられたのだそう。その名の通り、地元の家族連れやビジネスマン、ご高齢の方など幅広い世代に愛される店となった。
同店のラーメンは、塩、醤油のシンプルな2本立て。2022年11月にラーメンがリニューアルしたとのことで、まずは初めての人におすすめしているという塩ラーメンをいただいてみた。
深みに驚く! 6種類のスープと出汁を掛け合わせた究極の豚清湯スープ
この5年の間にもラーメンをアップデートし続けている同店だが、一貫してこだわっているのが豚ベースながら透明なスープの“豚清湯(ブタチンタン)”。清湯(チンタン)とは、白濁した白湯(パイタン)に対して透明のスープのことを指す。豚をベースにしたスープといえば、博多ラーメンのような白く濁りのあるスープを思い浮かべるが、どうして同店のラーメンは澄んでいるのか?
その理由は、中華の技法である“掃湯(サオタン)”だと佐々木さんが教えてくれた。
「最初に白濁したスープを強火で炊いて作り、そこにほぐした鶏の挽肉を入れて加熱することで、挽肉が凝固する途中に余分な脂を吸い取ってくれるので、最終的に澄んだスープになるんです」
この掃湯という技法を使うことで、豚骨スープ特有の力強さを残しつつ、澄んだ美しいスープを作ることができるそうだ。
今回のリニューアルで大きく変えたポイントが、スープに使用する素材をパワーアップしたこと。これまでメインに使っていた豚のゲンコツと背ガラに加え、豚頭、豚皮も入れることで旨みとコク、とろみなど、口に含んだときに感じる味わいの深みを増幅させた。
そしてスープを飲むと驚くのが……その複雑さ! スッキリとした口当たりのスープからは想像できない凝縮した豚のコクを感じ、それと同時に奥深くから旨みや苦味など、さまざまな味わいが複雑に絡み合いながら押し寄せてくる。
その秘密は、同店のラーメンは動物系スープのほかに、それぞれ別の鍋で煮込んでベストな状態の出汁をとった煮干しのスープ、かつおやさばなどの魚介スープ、昆布の出汁を最終的に合わせることで奥深い味わいを表現。
さらに「雑味はラーメンの重要なフック」と語る佐々木さんは、煮干しと魚介でとった二番出汁も加えることで、あえて苦味などの雑味を加えている。すなわちトータルでは、2種類の動物系スープ、煮干しと魚介の出汁、煮干しと魚介の二番出汁、昆布の出汁という6種類のスープを掛け合わせており、そのスープにかける情熱と手間暇は脱帽ものだ。
そんなスープを引き立たせる具材は、チャーシューとメンマ、ネギのみと至ってシンプル。細切りにこだわったメンマはラーメンと同じスープとタレで味付けすることでスープとの一体感を楽しめる。
今回のリニューアルではスープだけではなく、チャーシューも変更した。これまで煮豚と焼き豚を使っていたが、専用の窯を使用して炭火で吊るし焼きしたスモーキーな炭火焼きチャーシューにパワーアップ。食べ応えが増したチャーシューもさらなるファンを増やしそうだ。
また、同店のラーメンは小食な方やご高齢の方でも食べやすく麺の量は少なめに設定されている。大盛りメニューはないため、たくさん食べたい方は代わりに替え玉を注文しよう。
さらに「いろいろな味わいで楽しんでほしい」とユニークな味変アイテムが用意されているほか、麺の硬さ、脂の量などのリクエストにも柔軟に対応してくれるので、自分好みの味わいにカスタマイズして食べられるのも魅力のひとつだ。
常連になれば、誰もが憧れるセリフ「いつもの!」が言えるときが来るかも?
人気ナンバーワンの醤油ラーメンも注文
もう一杯、塩ラーメンとの2本立てで人気ナンバーワンを誇る醤油ラーメンも注文してみることに。たまり醤油を使った真っ黒な色合いのスープがインパクト抜群だ。
真っ黒なスープには、醤油の甘みとコク、濃厚な風味がギュッと詰まっている。見た目ほど濃くはなく、ほど良いバランスのコクと香ばしさで気がつけばあっという間にスープを飲み干してしまう。
ちなみに、醤油の味変のために用意されているのがハバネロ。数滴加えるだけでガラッと洋風な味わいに変わるので、こちらもぜひ試してみてほしい。
素材で勝負するよりも、手間暇をかけることでいかに奥深さを表現できるかに命をかけた『かしわぎ』のラーメン。「食べたときの楽しみにしてほしい」と、店内ではあえてラーメンの特徴などを一切説明しない潔さもいい。
ラーメンを口にしたとき、一体どんな味わいが待っているのか……ぜひとも足を運んで体感してみてほしい。
取材・文・撮影=稲垣恵美