住宅街に住むお年寄りにも安心して食べてもらえるあっさり系塩ラーメン
恵比寿駅東口からグーグルマップを頼りに歩くこと徒歩8分。次第に商業ビルが少なくなり、住宅やマンションが立ち並ぶエリアに入る。迷ったのでは? と不安になったが、遠くから看板が見えてホッとした。ここが2008年7月にオープンした『函館ラーメン しお貫』だ。
これまでいろいろなラーメン店を取材させていただいた経験から、店長になる方はラーメンがモーレツに好きという印象が強い。しかし、『しお貫』の店長・江澤正哲さんは「ラーメンが大好物ってわけじゃないのですけど、接客が好きでずっと飲食店で働いてきました」という。オープンから間もなくこの店で働いていた江澤さんは、2010年9月から店長に就任した。
人好きの江澤さん。人懐っこい笑顔で「ウチはどうやって見つけたんですか〜?」「人が話した言葉をメモして文章にするんですか、すごいっすね〜!」「記者さんは編集部の専属なんですか?」とか逆取材されて、うまく答えられず口をパクパクする筆者。そうか、お店の方は筆者に根掘り葉掘り聞かれてこういう思いをしているんだな、と胸に手を当ててこの体験を噛み締めた。
さて、話を店に戻そう。
恵比寿にはさまざまなラーメン店があるが、塩ラーメンを前面に出す店は珍しい。「この近辺はお年寄りが多いので、あっさり系の塩ラーメンにしました。前の店長が作った函館の塩ラーメンをベースにしたレシピがあって、僕はそれをブラッシュアップした感じです。材料はもちろん良質なものを使っていますが、銘柄や産地に特別こだわりはないんですよ。結局、ウマけりゃいいじゃん!と思うんですよね(笑)」という。
子どもからお年寄りにまで好まれる、鮮度バツグン!澄んだスープのあっさり塩ラーメン
『しお貫』という名の通り、看板メニューは塩ラーメンだ。当然のように特製塩ラーメン1000円をオーダーした。
魚介と豚のゲンコツ、そして鶏ガラを入れたスープを圧力鍋で炊き、さらに2時間くらい火にかけて煮込んで仕上げる。澄んだ清湯はあっさりだが旨味が強いという。
まずはレンゲでスープからいただきます。魚介と動物系がバランス良く配分され、あっさりとしているが旨味もあり物足りなさは感じない。ストレートの細麺がこれまたスープによく合い、ツルツルと喉越しよく吸い込まれていく。
しっかり醤油を利かせた厚めの豚バラ肉のチャーシューは3枚も乗り、極めつきはプリップリの海老ワンタンに半熟の味玉。大盛りを頼んだわけじゃないのにトッピングがモリモリだ。
「チャーシューは甘めの醤油タレに漬け込んでいるんですよ。おいしいですか、よかった〜。あっさりしているので若い人には物足りないかなと思って、ゆず胡椒を用意しているんです」と江澤さんが案内してくれた。少し入れてみると、柚子の香りが加わりボディが太くなった感じがする。味変で2度楽しめるのでぜひお試しを。
ちなみに味噌ラーメンもあり、「同じ清湯スープを使用しているのであっさりめです」とのこと。餃子も冷凍はせず、作ってから24時間以内のものしか提供しないこだわりだ。
深夜まで働く人たちの味方! 近所に住む人たちやタクシー運転手に人気
営業は午前中から翌朝まで続く。近隣には遅くまで営業している店が少ないせいもあるのか、意外と深夜もひっきりなしにお客さんがやってくるのだそう。
「きっと駅からほどよく離れているのがいいんでしょうね。この辺はもう住宅街ですから純粋に夜食としていらっしゃる方もいますし、駅前で一杯飲んでシメに食べてくれる人も。あとはタクシーの運転手さんも多いですよ。最近はこの通りで夜中の営業をやめている店が多いですし、さっと食べられていいんでしょうね」と、江澤さん。
平日はお年寄りや学生、休日はファミリーも多数訪れる。トガった味ではなくて、じーんとしみわたる系のやさしい味わいだから、年齢に関係なく好まれるのだろう。
「僕が店長になって10余年、試行錯誤しながらラーメンを作ってきました。実は今年、いちばんお客さんが多いんですよ! クチコミが増えているのかな? どうしてなのかちょっとわからないんですけど(笑)。でも、今までやってきたことが正しかったのかなと思えてすごくうれしいんです」と、江澤さんが語る。おそらく人気の理由のひとつには親しみやすい江澤さんの人柄もあるのではないだろうか。
恵比寿駅前ではオシャレで最先端のグルメが食べられるが、素朴でほっこりでき地域に愛されるラーメンにはまた違う魅力がある。いつもの味、食べ慣れた味は「いつ食べてもおいしい」と刷り込まれているんだから最強だ。そして筆者も「しお貫の特製塩ラーメンはおいしい」と刷り込まれてしまった1人である。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢