あっさりとしながらも、凝縮された豚と鶏の旨味が口いっぱいに広がるらぁめん
JR新橋駅烏森口を出て店に向かおうとしたが、うっかり線路沿いの飲食店街に入って迷ってしまった。店は新橋西口通りの中にある。思わぬタイムロスにやきもきしながら小走りで店に向かう。
店を訪れたのはランチタイムの落ち着いている時間帯だったが、白いのれんをくぐるとカウンターがほどよく埋まっており、行列にこそなっていないがひっきりなしにお客さんがやってくる。最初に筆者を案内してくれた孟林(もう りん)さん。『らぁめん ほりうち』に入社して1年目の新入社員だ。
孟さんが「店のらぁめんをまかないでいつも食べてますけど、どれもおいしいですよ!」というので、『らぁめん ほりうち』の基本のき、らぁめん790円をオーダーした。
あっさりとしながらもじんわり旨味の余韻が口の中に広がる醤油スープを、喉越しのいい中太麺がたっぷり持ち上げてくれる。この麺はもちもちなのに中はアルデンテのようだ。噛むほどに小麦の香りや甘味もするし、これはすごい! 厚みがあるチャーシューはとても柔らかく、軽く噛んだだけでもホロっと崩れてしまう。太いメンマも歯応えがあっていいなあ。
すると古参社員の岡林充人さんが「スープは鶏ガラとトンコツをふんだんに使っているんです。スープに浮いている油も肉から出たもの。あとはこのスープに合う醤油で味つけしただけです。シンプルな材料で作っているんですが、何層もの味のふくらみがあるでしょう? この麺も代表の堀内が考案した粉の配合と茹で方でこんなふうになるんです」と、解説してくれた。
新橋でこのお値段、このクオリティのらぁめんはかなりコスパがいい。最後のひとさじを口に入れた時「ごちそうさま」の代わりにふぅ〜っとため息をついた。
行列必至の名店『らぁめん 満来』のDNAを引き継ぐ『らぁめん ほりうち』
『らぁめん ほりうち』を語る前に、その祖たる存在の『らぁめん 満来』に触れておかなければならない。『らぁめん 満来』は1961年、練馬区田柄にオープンしたラーメン店で、現在は新宿に本店がある。淡麗系のラーメンファンにはおなじみの名店だ。その創業者・高野光男さんの右腕として働いていたのが、『らぁめん ほりうち』の代表・堀内利博さんだった。
岡林さんが教えてくれた。「『満来』が自社ビルの建て替えのタイミングで2代目に引き継がれる時、高野さんのすすめで堀内さんは独立。2007年に西新宿にある『満来本店』から50メートル離れた並びに『らぁめんほりうち 新宿本店』が誕生しました。そして2013年、『らぁめんほりうち 新橋店』もオープンしたんです。スープ、チャーシュー、味玉、麺に至るまで『満来』のすべてを継承しています」。
朝7時から深夜3時まで営業。お腹が空いたらいつでも食べられる安心感。
『らぁめんほりうち 新橋店』は新橋駅前エリアでどこよりも早く朝ラーを取り入れたラーメン店だ。この店でもっともアルバイト歴が長い高橋小一さんが答えてくれた。「2013年の開店当初から早朝営業をやっていました。月〜金の朝からレギュラーメニューが食べられる唯一の店でしたが、最近は近隣の店でもポツポツ始めたようです。朝からパワーをつけたいなら250gのチャーシューが乗ったチャーシューらぁめん、朝食らしく納豆が乗った納豆らぁめんもおすすめです」。
「サラリーマンだけじゃなくてね、けっこう学生とかカップル、最近は女性客も多いですよ。うちのらぁめんはどれも間口が広くて万人に好まれる味なので、いらっしゃるお客さんも幅広いですね」と岡林さん。
人気店がひしめく新橋エリアは入れ替わりも激しい。そのなかで10年もの間営業を続けてこられた秘訣を聞くと、「同じ品質のものを作り続けること。これだけですよ。その積み重ねの結果が、今にあると思っています」。
野球に例えると毎日の素振りが明日へのホームランにつながる、というわけだ。自分の仕事ぶりに置き換え、この言葉が妙にしみるものがあった。あ、ホントだ。まるで『らぁめん ほりうち』のスープみたいだなあ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢