究極の親子丼求めて今日も大盛況
JR新宿駅西口を出て、大ガード方面へ。大ガードを右側に見ながら大きな交差点を渡ると、線路と並行してまっすぐに続く小滝橋通りへと入っていく。通りの左右には、有名なラーメン店や居酒屋チェーン、ファーストフードの店が立ち並ぶ。毎日違うものを食べても1か月はかかるようなその数の多さ。さすが新宿駅近地域である。
新宿駅を背に、広めの歩道を5,6分ほど歩くと、右側に黒地に白抜きの文字で『鶏Dining&Bar Goto』の表示が見える。
と、ちょうど前を歩いていた女性3人のグループが店頭に表示されたメニューを見ながら「あったあった!ここ、ここ」と声をあげ、階段を下りていく。わざわざこのお店を目当てにこの地を訪れた人たちだ。
店内は木目調に統一され、天井はコンクリートの打ちっぱなし。6席のカウンターを中心に4人掛けのテーブルが4つ配置されている。明るすぎないダウンライトの照明がとても落ち着いた雰囲気で、店名の通りのおちついた隠れ家的ダイニングな雰囲気が心地よい。
丼のふたオープンの儀式に歓声があがる
今回お伺いしたのは、14時のラストオーダーの直前。だがその時間の間際まで何組ものお客さんが駆け込むように来店し、そろって東京軍鶏 究極の親子丼を注文する。2時過ぎの時間でありながら、ほとんどの席が埋まっている。
この日は8割ほどが女性のお客さん。友人と連れ立ってやってきているご様子の方々。そして次々にテーブルに運ばれてくる究極の親子丼。みなさん“映え”の映像を撮るべく、スマホを用意している。サービス心あふれるご主人はそんな方たちのために、目の前で丼のふたオープン! の小さな儀式をされている。
「うわー、凄い。とろとろー」「おー!」とふたオープンのセレモニーに湧き上がる歓声。他の席にまで、ちょっと幸せな空気が伝わってくる。筆者ももちろん、大人気メニューの究極の親子丼を注文。注文から5分ほどでやってくる。
ふたオープン。とろっとろの卵にまみれた大ぶりの鶏肉がごろごろと見え隠れ。そして真ん中に、濃厚な黄色に輝く立体的に立ち上がった卵の黄身。世の中にいろいろな黄色が存在するが、間違いなくいちばん幸せな黄色の風景のひとつだろう。早くも口中はそのトロトロの卵に包まれた鶏肉の予感に包まれる。
スプーンを使い一口。鶏肉、卵、ご飯が一体となり、優しい醤油出汁の甘辛をアクセントにして口中に広がる。まず最初に感じるのは卵のとろとろの旨さ。次に鶏肉をかみしめることで鶏の旨味が卵のとろとろとを混じり合う。他の丼では決して味わうことのできない親子丼だけの幸せの感覚である。
「地下1階でちょっと入りにくい感じもあって、以前は常連さんが中心の店でした。それが有名なインスタグラマーの方が来店されて親子丼を紹介してくれ、それをきっかけに親子丼を目当てに来てくれるお客様がとても増えました」とご主人の後藤亮二さんは、お店に起きた大きな変化を教えてくれた。
多い時には11時半から14時半までのランチタイムに50~60人のお客さんが訪れ行列もできるほど。7~8割の方がこの究極の親子丼を注文するとのこと。
家では味わえない特別な親子丼を目指して
店主の後藤亮二さんはもともと西新宿のホテルマンとして働いていた方(ホテル名は伏せますが、超一流ホテル)。そこを退職後、料理人をやられていた弟の健さんとともにここ新宿でお店を始めた。
「最初はホテル時代にお知り合いになったお客様が来てくれて、お店を支えてくれました。特に夜などは常連さんばかりでしたね」と亮二さん。そんな中、ランチメニューでなにか人に興味を持ってもらえるようなものが出せないか、ということで考えたのがこの究極の親子丼だった。
「親子丼は家でもできる身近な料理ですが、この親子丼だけは家では絶対無理、という特別の親子丼にしたかった。ですから味はもちろん、肉も卵も研究して『究極』という名前を付けられるようなものを目指しました。今も、もっとおいしくという気持ちで、少しずつ味は変わっています」と亮二さん。
鶏肉はジューシーで歯ごたえがあり、鶏肉本来の旨味が味わえる東京軍鶏を使用。意図的に複数の業者さんと契約し、いちばんおいしい素材を提供してくれる業者さんからより多くを仕入れることで、高い味の質を常に維持しているとのこと。
卵ももちろん特別のものを使用。その肉と絡まる味わいももちろんだが、できあがった親子丼の上に載せる生卵の色合い、元気さにも非常にこだわっている。味だけでなく目でも楽しめる親子丼でもある。
「まずは親子丼を食べに来店していただいて、お店を気に入っていただいたら他のものもぜひ食べていただけたらうれしいですね。うちはから揚げも人気があって、から揚げを目当てに週に3回くらい来ていただいている常連さんもいらっしゃいます」と亮二さん。
究極の親子丼のほかにも多彩なランチが用意され、また夜には焼き鳥や水炊き、鳥刺しなど多彩な鶏料理を楽しむことができる。特に鶏好きの方にはぜひ訪ねていただきたいお店だ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠