その店は『百味』という。
圧倒的な非日常空間
間違いなく所沢を代表する大衆酒場で、もちろん、沿線住民である僕も大好きな店。
営業はなんと午前11時~夜22時。いつでも昼間っから陽気に酔っぱらえてしまうのだ。
写真は、生ビール中ジョッキ460円、つくね辛口一本160円、牛すじ煮込み650円。特に、ビッグサイズのつくねは、毎回頼むお気に入り。
『百味』最大の特徴は「この通りの地下にこんな大箱の酒場があったとは!」と驚いてしまう巨大な空間。そこに、昼夜問わずぎっしりと酔客がひしめき、一様に楽しそうに飲んでいる。まるで、界隈の酒飲みが全員ここに詰め込まれているんじゃないかと錯覚するほど。
フロアのメインはずらりと並ぶテーブル席で、壁側には小上がりの座敷席もたくさん。
壁には見るものを圧倒するような、多種多様のメニュー短冊が貼られ、眺めているだけで飽きることがない。まさに「百の味」と書いて『百味』なのだ。
開放感と酒飲みたちの不思議な連帯感があいまって、ここで飲むとどうも勢いがついてしまう。好物のつくねにすら箸をつける前に、生ビールを飲み干してしまった。
ふぅ、あらためて、『百味』の料理を堪能していこう。
頼もしきつまみたち
ふわふわな食感だったり、軟骨を混ぜてアクセントを加えてあったり、卵黄が添えてあったりするのではない、無骨で巨大ななつくね。まるで『百味』そのもののような存在感。食べ応えがあって、鶏の旨味と甘辛い味で、ホッピーが進む!
豆腐好きにとって最高のサプライズ。醤油をベースとした甘めの味付けにほっとする。
このあたりで、店の歴史にも触れておこう。
『百味』は、昭和40年ごろに同じ沿線のひばりが丘で誕生。昭和44年ごろ所沢に出店。ここプロペ店は、昭和58年に開店した、所沢で3店舗目の店だそう。一時は西武線沿線に10店舗近くまで増えたというグループも、バブル崩壊後に徐々にその数を減らし、今はこの1店が残るのみ。ただここは、場所と人、両方の良さゆえだろう、開店当初から常に固定客がつき、往時は月1万人、今でも月に8000人くらいの来客があるというんだからすごい。
店主の大久保金一郎さんはじめ、オープン当初からいる主力の店員さんが、今も10人以上働いており、そこに海外からの留学生を中心とした若手店員さんも含めると、スタッフは40人以上になるという。
活気が活気を呼び、客、店員、どちらからも愛される、もはや所沢のパワースポットだ。
見てのとおりの極上の品。
近くのテーブルに届いているのを見て、贅沢とは思いつつ思わず頼んでしまった。それでもまぁ、この値段なんだけど。シンプルな塩味で引き出された鯛の旨味、ホクホクの身がたまらない。
となると、どうしてもこうなってしまう。
あぁ、やっぱりここで過ごす時間は幸せだなぁ……。
店主からのメッセージ
「え? メッセージ? う~ん……メニューの表紙に書いてある通りですよ。『地元密着、足かけ五十年、新鮮・味・安さで気楽に一杯』ね? そりゃ昔は中高年の男性ばっかりの店だったけど、最近は若い人から女性から満遍なく来てくれてますから。もしも興味を持ったら、気楽に一杯やりに来てください」(店主)
大久保さん、店員のみなさん、どうもありがとうございました!
取材・撮影・文=パリッコ