これぞ正統派大衆酒場

風格漂う外観
風格漂う外観
看板にはこんなメッセージ
看板にはこんなメッセージ

看板の文字を見てほしい。
最近、人生って本当にこれにつきるよなぁと思うようになった。

永見の歴史は古く、創業から約80年。上の写真を見ると信じられないことだが、開店当初は近辺に、この店くらいしか飲み屋がなかったそうだ。現在の店主、永見充(まこと)さんは3代目。白い割烹着をビシッと着こなす、いかにも江戸っ子な風貌が粋で頼もしい。

1階の店内
1階の店内

厨房に沿ってずらりとカウンター席。広いフロアに潤沢なテーブル席。オープンすればここがあっという間に満席になり、酔客と店員たちの活気が渦巻く。僕はまだ1階でしか飲んだことがないのだけれど、2階席の雰囲気もこれまたかっこいい。

なぜか宇宙船内のようでもあり
なぜか宇宙船内のようでもあり
永見の2階座敷で宴会、いつかやってみたい
永見の2階座敷で宴会、いつかやってみたい

永見の名物メニューたち

足立市場へ毎日通って仕入れるという新鮮な魚介類や、旬の食材を使った日替わりメニューなども豊富だが、名物メニューも多い。そのひとつが千寿揚げ。

千寿揚げ(にんにく入り)520円
千寿揚げ(にんにく入り)520円

いわゆる練り物ではあるんだけど、他のどこにもないオリジナリティのある一品。その説明はいったん置いておいて、こいつとチューハイで始めることにしよう。

焼酎ハイボール(酎ハイ)350円
焼酎ハイボール(酎ハイ)350円

独自のエキスを使った、いわゆる“元祖下町ハイボール”と呼ばれるもの。メニュー名はシンプルに「酎ハイ」だけど、さすが下町、注文が入ると「ボール一丁!」の声がフロアに響く。無論、常連はみな「ボールおかわり」なんて頼んでいるわけだけど、下町っ子ではない僕はなかなかその勇気を出せず、どうしてもまた「チューハイください」と頼んでしまうのだった。

さて、話を戻そう。
千寿揚げの秘密は割ってみるとわかる。

野菜が主役!
野菜が主役!

タネに、一般的な練り物からするとありえないくらいの玉ネギが練りこまれている。これがシャキシャキジューシーで、香ばしい外側の食感とのハーモニーがたまらない。にんにく入りなら、つまみ力はさらにブースト。ボールがぐいぐい空いてしまう。

鳥軟骨つくね焼 温泉卵付470円
鳥軟骨つくね焼 温泉卵付470円

こちらも永見名物の、鳥軟骨つくね焼。コリコリとした軟骨がアクセントになった巨大なつくねが、鉄皿の上で湯気をあげる。

乗せられた温泉玉子を崩し
乗せられた温泉玉子を崩し
甘辛だれとともにほおばる!
甘辛だれとともにほおばる!

実は僕は、一般的な“月見つくね”に対して、ちょっと懐疑派なところがある。というのも、串に刺されたつくねの横に卵黄がちょんと乗る、よくあるスタイル。あれ、うまく表面に卵黄をまとわせて食べるのがけっこう難しいのだ。味の組み合わせ的に美味しいことがわかりきっているからこそ余計にもどかしい。ところが永見のつくねはどうだろう? 説明するまでもなく、上記の問題を華麗にクリアしている。夢にまでみた三位一体のハーモニーを余すことなく楽しめるというわけで。

そりゃあこんな顔にもなる
そりゃあこんな顔にもなる
石カレイ刺600円。湯飲みになみなみと注がれた『一代』240円。
石カレイ刺600円。湯飲みになみなみと注がれた『一代』240円。

日替わりの刺し身の中から、今日はカレイを選んでみた。噛みしめればわかる新鮮さ。そして広がる甘みと旨味。

ここはやはり日本酒だろう。
地酒もいろいろあるが、頼んだのはいちばんオーソドックスな、広島の銘酒『一代』240円。店名入りの湯飲みにたっぷりなのが嬉しすぎる。刺し身と酒をちびちびやりつつ、最後に今まで頼んだことのないものをひとつ、注文してみることにした。

“永見鍋”のうまさの秘密は……

冬季限定の永見鍋650円
冬季限定の永見鍋650円

こういうスタイルでくるのか。固形燃料の火を眺めているだけでも酒が飲める。

そろそろ煮えたかな……
そろそろ煮えたかな……

ふわりと漂う湯気の中から、うまそうなダシの香り。そろそろ冬も終わる。よし、今季最後の「ひとり鍋飲み」だ。

掘れば掘るほどザクザクと出てくる具材
掘れば掘るほどザクザクと出てくる具材

これがもう、複雑で、だけど優しくもあって、心身に染み渡るような味わい。

無粋にもご主人に、永見鍋の美味しさの秘密を聞いてみたところ、「いや~、オレも長く修行はしたけどさ、ぶっちゃけ、どの店もダシのとりかたや味つけの配合になんて大差ないんだよ。そんなに美味しいって言ってもらえるのなら、強いて言えば食材の組み合わせかな? ケチケチせずにいろいろ入れてるしね」とのこと。う~む、いろんな意味で深い……。

ダシを吸った豆腐がまた……
ダシを吸った豆腐がまた……

店主からのメッセージ

「メッセージ? 別にないよ(笑)。店内がおっさんだらけだった昔じゃありえないことだけど、最近は女性や若いお客さんも増えてきた。ただ、飲みかたを知らない若い子ってたまにいるんだよね。大声で騒いだり、吐いたり。かと思うと、先輩に連れられてやってきて、楽しかった美味しかったと喜んで帰ってくれる人も多い。常連さんやお店にとって、どっちがめんどくさくないかはわかりきってるでしょ(笑)?  ひとつだけ言えるのは、お酒は綺麗に飲んでほしい。それだけかな。」(店主)

3代目のご主人、永見充さんに写真をお願いしたところ「オレはいいから息子を撮って(笑)」と
3代目のご主人、永見充さんに写真をお願いしたところ「オレはいいから息子を撮って(笑)」と

4代目、これからも飲みに行きます!

取材・文・撮影=パリッコ

『千住の永見』店舗詳細

住所:東京都足立区千住2-62/営業時間:15:30~22:30/定休日:日・祝・第3土/アクセス:JR・私鉄・地下鉄北千住駅から徒歩2分
所沢には、どちらかというと若者の街というイメージがある。西武鉄道の中でも特に栄えている駅のひとつで、東京西部や埼玉出身者たちが、池袋や新宿よりも先に、肩慣らしもかねて遊びにくりだすような街。“プチ都会”というと、在住の方々に失礼だろうか。そんな所沢の、西口にある最大の繁華街「プロペ通り」(正式名称は「所沢プロペ商店街」。日本の航空発祥の地であることからプロペラにちなんで命名された)には、いまどきの新店が立ち並び、若者たちが楽しそうに行き来している。逆に、老舗といわれるような大衆酒場はそんなに多くはない。というか、所沢になじみのある酒飲みたちに、街を代表する酒場を聞けば、大半の人がここの名前を答えるんじゃないだろうか。
根津といえば、谷中と千駄木を含めて「谷根千」なんて呼ばれる、もはや東京を代表する観光スポットのひとつ。昔ながらの街並みが残り、だけど新しい店も多く、活気があって街歩きが楽しい。そんな根津の街の中でも、ひときわ渋い佇まいを誇る酒場が、『木曽路』だ。
この店を知るまで、僕はあまり渋谷が好きではなかった。飲める年齢になってからずーっと酒好きで、居心地のいい飲み屋がある街こそが自分の居場所のように感じていた。だから、常に若者文化の最先端であるような、そしてそれを求めてアッパーなティーンたちが集まってくるようなイメージの渋谷という街に、自分の居場所はないと思いこんでいた。