そもそもの店の始まりは八丈島の和菓子店
『浅草花月堂』の澤田さんはこんな話を聞かせてくれた。
「店主は八丈島の出身で、実家は以前から島で和菓子屋を営んでいました。18年前(2004)に浅草でそばと甘味の店を開いたのが『浅草花月堂』の始まりです。その後、今の場所に移転し8年になります。」
そうか。浅草での店の歴史は意外にも短いのだ。
『浅草花月堂』は取材に訪れた本店のほか、浅草に2店舗をかまえる。浅草で店を始めた当初は、八丈島のアシタバを練り込んだそばや島とうがらしなども提供していた。そしてメロンパンも、実はその頃からメニューにあったのだそうだ。ただ当時はあくまでも脇役としての存在。表だって取り上げられることはなかった。それがのちのち名物として知られるようになるとは、夢にも思わなかったらしい。
その大きさとフワフワのおいしさが特徴の『浅草花月堂』のメロンパン。評判は2012年頃からバスガイドさんの口コミで広がるようになったという。2020年東京オリンピックをそのあとに控え、海外からの観光客が急増してきた時期とも重なった。YouTuber やSNS投稿、海外のガイドブックなどによって、多くの海外客にも知られるようになったのだ。
「うちのメロンパンの発酵時間は通常のパンの約3倍。フワフワの食感がウリなんです。海外では硬めのパンが多いようなので、こういうやわらかいパンが珍しかったのかもしれないですね。」と澤田さんは話す。
メロンパンづくりのキッカケは大学で学んだ発酵学
ご店主は学生時代、東京農業大学で発酵学を学んだのだという。卒業後は製粉会社で約10年間、研究職に従事。そしてその間に培われた経験や知識が、その後のメロンパンづくりへつながることになる。
パンの発酵時間は通常40~60分なのだそうだ。しかしジャンボめろんぱんの発酵時間は約3時間とかなり長い。ここまで発酵させると、普通はうまく膨らまなかったり、アルコール臭くなってしまう。だがそこは発酵のプロ。季節や気温、湿度にあわせ、酵母の活性状態を常にチェックしながら、このフワフワのジャンボめろんぱんを完成させるのだという。
ジャンボめろんぱんと風車の壁
店のメニューには、生クリームを挟みこんだホイップクリームめろんぱん500円や、アイスめろんぱん600円もあるが、ここはスタンダードなジャンボめろんぱん250円をいただこう。
まだ温かいメロンパンを紙袋から取り出してみると、期待どおりの手のひらサイズの大きさだ。外のカリッと感に対し、中はふかふか。控えめな甘さで、ジャンボではあるがあっという間に平らげてしまった。これはホイップクリームめろんぱんもいってみるべきでした。
『浅草花月堂』といえば、最近もうひとつ話題になっているものがある。本店の場所はちょうどおまつり西参道商店街の入り口にあたるが、参道入り口側の壁が撮影スポットとして知られるようになってきたという。
「この場所は『風車(かざぐるま)の壁』と呼ばれてるんです。TVで紹介されたこともあり、ここを目指してくる方が最近増えました。年に4回、季節に合わせてカラーを変えています。」と澤田さん。
壁には風車がひとつひとつきれいに飾られ、その上にはレトロな看板が掲げられている。完全に和のイメージの風車だが、壁に整然と並ぶ様はまるでアートのような美しさだ。ここを目指す観光客が増えているのもうなずける。最近浅草のそこかしこで出会う着物姿の女子たちも、きっとここで写真を撮って浅草旅の思い出の一コマにするのだろうな。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪