やっぱ揚げ物は食べ歩きグルメの王様でしょ
鰻やすき焼き、天ぷらなど、浅草の定番グルメは数あれど、どれも店で腰を据えて楽しむイメージが強い。もちろんそれも食の老舗がひしめく浅草ならではの楽しみかたであろうが、一方で気の向くままにいろんなグルメをちょい食べしたいと思う人も少なくないはずだ。
中でも揚げ物系の食べ歩きグルメは引きが強い。「こっちへおいでよ」と容赦なく誘いをかけてくる。この辺りの店に並ぶお客さんは、圧倒的に若者率が高い。そんな中、「ダメダメ、そんなに若くないんだから!(気持ちは若いけど)」と引き留めようとする自分と、「いいじゃんいいじゃん。だって食べたいんでしょ?」とささやく自分とのせめぎ合いに心揺れる筆者。
はっきり言おう。こういうときは抵抗してもムダである。なのであっさりと欲望に従うことにした。
筆者も列のうしろに並び、浅草メンチ300円を手にした。食べながら通りを歩くことは禁止されているので、2軒隣の休憩処でいただくことにする。
紙袋に包まれた浅草メンチはまだ揚げたてだ。一口かじるとサクッとした衣の中からやわらかいひき肉が現れ、ジューシーな肉汁が溢れてきた。しっかりと味がついているから、余計な調味料を加えずにぜひこのままのおいしさを味わってほしい。
メンチカツにはこういうざっくりとした粗挽きのひき肉が合う、と個人的には思っている。大きめに刻まれた玉ねぎもいいアクセントだ。肉と玉ねぎの甘みだろうか。食べたあとも口の中に余韻が残る。
やはりこういうガッツリ系は、背徳感満載だけど食べ歩きグルメの王様である。
こだわりは復活した幻の豚
じつはこのメンチカツに使われているのは「高座豚(こうざぶた)」という神奈川のブランド豚。もともと旧高座郡で飼育されていた豚で、昭和初期には薩摩黒豚と並んで全国的に知られるようになり、戦後は3000頭前後飼育されていた。しかし高座豚は小型で肉量が少ない上、生育期間も一般の豚の2倍以上だ。畜産家からは次第に敬遠されるようになり、一時は絶滅状態に。ゆえに「幻の豚」と呼ばれるようになった。
昭和60年に地元を中心とした養豚家たちが高座豚の復活に立ち上がり、さまざまな研究や品種改良が重ねられた結果、“新生高座豚”として再び世に出ることになったという。現在では「かながわの名産100選」に認定されるほど。まだまだ貴重な豚であることはたしかだ。
高座豚本来の旨さを引き出すために
『浅草メンチ』オープンのきっかけは、オーナーさんが偶然食べた高座豚のおいしさに魅せられたこと。その魅力をもっとたくさんの人に知ってほしいと思い、2012年に浅草に店を開いたという。
浅草メンチは高座豚に牛肉をブレンドして作られている。高座豚の特徴は、その肉質のきめ細かさと、柔らかで脂の質がよいこと、そして旨味が多いことだ。
その高座豚のおいしさを最大限に引き出すため、国産の高品質な材料を使い、組み合わせを吟味して完成させたのがこの浅草メンチなのだ。手軽な値段で高座豚のおいしさが味わえる食べ歩きグルメとして、これからもたくさんの人に愛される店を目指している。
それにしてもビールが欲しくなるおいしさ。メニューにあるのでよりメンチカツを楽しみたい人はぜひ。
構成=フリート 取材・文・撮影=千葉深雪