湯呑みはいまだに不動の土産物なのだ
そうした困難を乗り越えて、家族や友人のために湯呑みを選んで帰宅したとしても、残念ながら土産湯呑みは喜ばれないだろう。大抵の人は、既に自分好みの湯呑みを使っているはずで、そこに「親父の小言」や「長寿の心得」が書かれた湯呑みをもらったところで、困惑するより他ないからである。
にもかかわらず、湯呑みはいまだ土産物の主要な地位を占めている。ビームスなどのセレクトショップの商品や、美術展のグッズにしばしば湯呑みが採用されるのも、「定番でありつつ、ノスタルジアを感じさせる商品」として認識されているからだろう。
また、各地の企業では湯呑みを定番のグッズとしているところもある。たとえば浜松に本社を置く二輪・四輪メーカーのスズキでは、毎年のようにデザインを変えた湯呑みを販売して、ファンの間ではコレクターもいるほどだ。
今回は、こうした「注目を浴びる湯呑み」も含めて、日本各地に残る「土産湯呑み」を見ていきたい。
定番、名所名言の湯吞み
まず土産湯呑みの定番、それは名所をモチーフとした湯呑みである。以前東京タワーで入手した夫婦湯呑みは、富士山をバックに皇居、雷門、都庁にパンダに東京ドーム……と、これでもかと名所が盛り込まれた絵柄であった。
また、上記の「親父の小言」湯呑みのように、周囲にミッチリと文字が書かれた湯呑みもよく見られる。たとえば花巻で購入した宮沢賢治湯呑みには「雨ニモ負ケズ」の全文が、岡崎で購入した徳川家康湯呑みには遺訓があしらわれている。
湯呑みを円筒と考えるならば、巻物に文を書く感覚で文字を載せたくなる気持ちもよくわかる。しかし残念なことに一度に全文を見ることはできず、なおかつこの湯呑みで茶を飲んでいる最中には、文を読むことができないのである。その点、浅草・仲見世の土産物店で購入した湯呑みは、「浅草」と大書されているのみで、潔い。
白地にレトロな絵柄の湯呑みが好きだ
ところで、私が土産湯呑みの中で最も好きなのは、白地にレトロな絵柄が施されているものだ。2013年、流鉄流山線で「なの花号」2000系が引退する際に購入した湯呑みは、車両が描かれているのみのデザインでシンプルだ。
一方、奈良・天理の土産物店で購入した白湯呑みは、おめかしをしたパンダのデザインに「BEAUTIFUL」の文字が添えられている。
なぜ天理でパンダなのか、何がビューティフルなのか。謎に包まれたこの湯呑みには100円の値札が付けられており、旅の途中であっても買わざるを得なかった。
買うべきは採算度外視の湯呑み?
そう、土産湯呑みはしばしば、採算を度外視しているとしか思えない値段で売られているものがあるのだ。岩国にある、広島東洋カープ二軍の本拠地・由宇練習場の売店で売られていた巨大湯呑みは、朴訥としたデザインに「Carp 1993(由宇練習場の開場年)」と赤字で書かれた手作り感満載のものであった。
これも100円で販売されていたのである(なお現在、由宇練習場は新型コロナウイルス感染拡大の影響で無観客となっている)。こうした「儲け度外視の湯呑み」にこそ、秀逸なデザインのものが潜んでいるのではないかと密かに思っているところだ。
新しい湯呑みが欲しいと考えている人は、ぜひ各地の観光地で、イカしたデザインの湯呑みを自分用の土産として買い求めてはどうだろう。
絵・写真・文=オギリマサホ