実家の蔵を改装し、長年の夢だったカフェと古物商を始める
店は粕谷幸平さんと妻の康子さんの夫婦で営んでいる。幸平さんの実家が持つ蔵を利用し、長年夫婦の夢だったカフェを始めたのは2019年のこと。
先に裏蔵では幸平さんの趣味が高じて古物商を営み始めており、それが2013年頃。その後、表蔵の補修をして2019年からカフェも営業することとなる。
二つの蔵を改装するには時間も費用も費やした。内装の工事で親戚一同が総出となり、1年がかりで改装。なんと壁の塗装は自分たちで手がけたそうだ。
店内には幸平さんの趣味である骨董やアンティークの調度品や食器が所狭しと並び、現代の雰囲気がありつつも、タイムスリップしたかのようなレトロな雰囲気も併せ持つ。
厳選された旬の果物は、元青果店の目利きとこだわりが生きた数々
元は青果店を営んでいた夫婦。時代の流れと共に店を閉めたが、その目利きを生かしてカフェで使用する果物は、毎日市場から直に仕入れている。旬の新鮮な果物をたっぷり使った自家製のこだわりスイーツは、これでもかというほどのボリューム感とバラエティに富んでいる。
中でも客の多くが注文するのは、国産高級果実がふんだんに盛り付けられたフルーツパフェ。ご覧の通りのボリュームと値段で、目も心も、そしてお腹も満足しない人はいないだろう。
この日のフルーツパフェは苺、パイナップル、スイカ、夕張メロン、マスクメロン、りんご、イチジク、ゴールデンキウイ、シャインマスカット、巨峰。溢れんばかりの果物たちが彩りよく並ぶ。取材時はすでに6月、この時期に苺を目にするのはとても珍しいが……。
「うちは夏になっても北海道産を取り入れてますよ。ちょっと高いですけどね、そこは青果店としてこだわりたくて。市場と長年の付き合いがあるので、数は少ないけれど、何とか卸してもらっています」
なるほど、長年の信頼関係があるから為せる技。お手頃な価格で食べ頃の旬の果実がたっぷりと食べれるのは、こうした夫婦の努力があってこそ。
この日訪れたのは、閉店も間近に迫った17時頃だったが、次々と途切れることなく客が訪れる。地元の人はもちろん、遠方から足を延ばす人が多くいるそうだ。粕谷夫婦の人柄と果物をはじめとした数々の商品へのこだわりにみな惹かれるのだろう。
会計を済ませて店を出ようとする客が口々に「本当に果物が美味しかったです」「今までに食べたことがない美味しさです」と夫婦に伝えていくのが印象的だ。
別の客からは、店の看板メニューの一つ、かき氷の「果の華氷」について尋ねられていたが、
「氷のシロップは、果物の味覚やテイストに合わせて、ガムシロップだったり、練乳だったりと選んでいる。トマトはレモン汁を合わせているよ」と幸平さんが丁寧に答える。
「せっかく来てもらったのだから、また来たいって思って帰ってもらいたい。うちは果物が本業だからね」と語る幸平さんは、客と果物への愛情に満ちた表情をしている。
果物たちを引き立てるコーヒーは、厳選された豆をハンドドリップで淹れる
果物がとにかく絶品だが、コーヒーも侮れない旨さだ。渋みも雑味もなく、澄んだ味と言うべきか。
「これね、わざわざ頼み込んで入れている豆なんです。私が一目惚れしてしまって」と幸平さん。
所沢市内にある『直焙煎珈琲豆kieido(キエイドー)』から取り寄せているそう。ここにもこだわりがきらりと光る。コーヒーは注文が入ってから店内で焙煎し、幸平さんがハンドドリップしている。スイーツの味を引き立てるムードメーカーにも是非注目してほしい。
夢をかなえた二人は、今日も朝から晩までひた走る。
店のオープンは昼過ぎだが、二人の1日は開店前からすでに始まっている。早朝から市場へ出向き青果を仕入れ、今でも得意先への卸しは毎日のように続けている。卸が終わったらカフェの開店だ。
長年抱いていた夢を叶えた粕谷さん夫婦。夢が叶った今どんな気持ちなのだろうか。
「最初は少しでも人が来てくれるといいね、と言う気持ちでやっていたけれど。毎日毎日、これだけたくさんの人が来てくれてありがたいですね。老体に鞭打つ感じだけど(笑)。始めた以上は頑張りたいね」。
夢をかなえたその先に、夫婦の更なる目標はあるのだろうか。ひた走るご夫婦とカフェをこれからも陰ながら応援したい。
取材・文・撮影=永見 薫