「製麺技能士、鳥居憲夫謹製」の木札が輝く

製麺所の名前を押し出す店は多いが製麺技能士とは?

製麺技能士、筆者は今回初めて知ったがこの資格は歴とした国家資格である。ラーメンの他うどんやそば、手延べそうめんも含まれ、各地の製麺所でそれなりの人数が取得している資格だ。

しかし入り口に立てかけてある木札の技能士名入りの件について店長の国吉さんに伺うと「鳥居憲夫」とは親会社の製麺会社・大成食品の代表で製麺業界の大御所である鳥居憲夫そのひとだという。この店から徒歩10分ほどの本社すぐそばには直売ラーメン店『麺彩房』、サンロード隣接の中野ブロードウェイ地下には麺の直販店もある。本社では鳥居式らーめん塾や工場見学も行っており、中野に根付くラーメン文化の一角を垣間見た気がした。

懐かしさのある店内風景、コロナ対策で取り入れた木枠にすりガラスの仕切りもなじんで風情に感じる。

もっちりツルリの喉越し、特製鶏つけそば専用極太平打ち麺

特製鶏つけそば。麺の迫力、かなりボリューミー。

店名にもある、鶏つけそばを「特製」でお願いする。「つけそばは、ちょっと(時間が)かかるんです」といいつつもメニューを見ている間にもう着丼。

うどんなみの太さの艶やかな平打ち麺が主張する、そこに特製の鶏チャーシューと味玉。温かいつけ汁は鶏白湯と魚介出汁でとろり濃厚、しっかりと極太のもちっとした麺に絡む。喉越しよく、つるりと食べ進んで気がつくともう食べ終わり。この麺とつけ汁のバランスがすごいですねと聞くと「メニューごとに麺を作ってますからね」と国吉さん。

つけそばの鶏白湯は珍しい。元々朝は4時すぎからこのスープの仕込みをしていたという手の掛け方だ。

ここから話は製麺所直営ならではの麺のこだわりに。

まず鶏つけそばと共に店名に並ぶ豚そば、あっさり豚清湯醤油とこってり豚白湯醤油のそれぞれにはパツッとした博多風細麺。豚白湯と鶏白湯を合わせた醤油系の鶏豚らーめんには加水のエッジが効いた細打ちストレート麺。鶏つけそばは、中太(極太はまた更にあるとのお話!)の平打ちストレート麺、油そばにも中太の縮れ麺。2020年秋から朝限定で出しているサバ節らーめんと期間限定らーめん(取材時は鯛だし鶏塩そば)には細打ち縮れ麺と、取材時のメニューでも5種類の麺を使い分けているという。

「製麺の会社ですからね」と言うが、スープやメニューごとに麺を開発するのは、ひとえにラーメンとしての完成度を上げるため。現場からメニューの提案をフィードバックし、スープの仕込みには早朝から取り掛かるなど、スタッフ誰もが職人気質な“研究の姿勢”で取り組んでいる。製麺技能士だけでなく全員が職人なのだ。

中野の街の玄関口にあるらーめん店、毎日の食堂として

この日取材に応じてくれた店長の国吉さんは、以前は本社にある『麺彩房』で修行し『上海麺館』は2014年ごろ、店の開店の半年後ごろから働いているという。中野の街の玄関のような立地のお店ですし、お客さんの変遷もよく見えるのでは?

「コロナの時短要請もあって始めた、朝限定のサバ節らーめんなんかは女性の人気も高くてですね。東北には朝ラーの習慣もあるらしく、懐かしむようにいらっしゃる東北出身の常連さんもいまして」

小気味良い動作で、麺を選び茹で上げる時間ごとに仕上げていく国吉さん。

毎日毎日、何種類ものスープを仕込みそれぞれの麺を茹で、お客さんのおなかと気持ちを満たす。中野という住人も勤め人も多い街の玄関口で、たくさんのいらっしゃいませ、ありがとうございましたが飛び交う。

日々の仕事を、お客さんから満足の「ごちそうさま」で返してもらうお店、そして会社が長く続いていることこそ、職人たちの気質と磨いた腕の成果なのではないだろうか。

当初、ただ懐かしく見えた店構えと雰囲気は、昔からの日本の、当たり前のように職人が仕事をしている姿そのものが醸し出している、本当の懐かしい光景だったのだ。

特製鶏つけそば950円。

取材・文=畠山美咲 撮影=荒川千波