王子の基礎知識
王子は、江戸時代に日光御成街道が江戸市中と直結されてから往来が多くなり、徳川8代将軍吉宗が飛鳥山に桜を植えて庶民に花見の地として開放したことで、江戸を代表する行楽地になった。
飛鳥山は、2021年度NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公・渋沢栄一が晩年を過ごしたところ。飛鳥山には、渋沢の偉業を知る『渋沢史料館』、創立に関わった王子製紙の足跡を記す『紙の博物館』、そして大河ドラマ館がオープンした『飛鳥山博物館』があり、さながら渋沢ワールドである。
近くには、王子の名の由来となった王子神社、落語「王子の狐」の舞台・王子稲荷神社、深山幽谷の趣がある名主の滝公園もあるので、歴史好きには魅力的な街だ。
1 飛鳥山公園
江戸時代から続く桜の名所
徳川8代将軍吉宗が、江戸っ子たちの行楽地にするため桜を植えて名所になった。ソメイヨシノやサトザクラなど約600本のほか、約1万5000株のツツジや約1300株のアジサイが咲く。
2 紙の博物館
紙専門の珍しい博物館
世界有数の紙専門の博物館。和紙・洋紙を問わず、古今東西の紙に関する資料を幅広く収集し、保存・展示する。常設展では、紙の製造工程や種類のほか、紙の歴史や紙の工芸品などを紹介。
3 北区飛鳥山博物館
東京都北区のことが詳しくわかる
北区の歴史や自然、文化に関する展示を行う博物館。武蔵野台地と東京低地の境となる東京都北区の成り立ちや古代人の暮らし、江戸時代の飛鳥山などを学べる。2021年は、館内に大河ドラマ『青天を衝け』の大河ドラマ館もある。
4 渋沢史料館
日本資本主義の父の偉業を知る
2024年度に発行される新1万円札の顔となった渋沢栄一。「栄一の思いにふれる」「91年の人生をたどる」「幅広い活動を知る」という3つのテーマで渋沢栄一の生涯と偉業をしのぶ。完全予約制(最新の開館日・開館時間は渋沢史料館HPで要確認)。
らーめん えんや
どんどん旨くなる塩つけ麺
塩らーめんの名店。塩つけ麺〜煮干し出汁かけ〜900円は、丼に麺とともに昆布と煮干し出汁が入り、食べ進めればつけ汁の風味が増しより一層旨くなる。麻辣塩らーめん900円。
5 王子神社
徳川吉宗が飛鳥山を寄進した
元亨2年(1322)に当時の領主・豊島氏が紀州熊野三社から王子大神を分霊したのが始まりという。紀州出身の徳川8代将軍吉宗は、この神社が紀州にゆかりがあることを知ると飛鳥山の土地を寄進した。境内の大イチョウは都の天然記念物。
6 王子稲荷神社
1000年以上続く関東稲荷総司
康平年間(1058〜1065)に源頼義から関東稲荷総司の称号を頂く。境内にある狐の穴跡は落語「王子の狐」の舞台。大晦日にはキツネに扮して参詣する「狐の行列」が行われる。
7 名主の滝公園
斜面を巧みに利用した回遊式庭園
安政年間(1854〜1860)、王子村の名主が自邸に開いた滝。昭和20年(1945)の空襲で焼失したが、15年後に再公開された。高さ8mの男滝をはじめ、女滝、独鈷の滝、湧玉の滝など4つの滝があり、情緒満点。
石鍋久寿餅店
モチモチとした弾力がたまらない
明治20年(1887)創業。くず餅は、小麦デンプンを木桶で1〜2年間発酵させる。その後、発酵臭や酸味を取り除くため水にさらして、蒸し上げる。くず餅(小)2〜3人前650円。寒天から手作りするあんみつ460円もおすすめ。
8 北とぴあ 展望ロビー
飛鳥山や王子の街を一望する
東京都北区の産業と文化の拠点・北とぴあの最上階17階にある展望ロビー。三方に窓があり、南側は飛鳥山公園、北東側は筑波山、南西側は秩父連山が望める。東京都北区が誇る絶景スポットだ。
【街探検】渋沢 栄一と飛鳥山
飛鳥山を愛した渋沢栄一は、この地を終の棲家とした
渋沢栄一は、天保11年(1840)に現在の埼玉県深谷市に生まれた。家業を手伝う一方、父に読み書きを習い、次いで従兄の尾高惇忠(後の富岡製糸所初代場長)から「論語」をはじめとする学問を学ぶ。その後、一橋慶喜に仕え、パリ万国博覧会(1867年)を視察するなど見聞を広め、やがて実業界の指導的な役割を果たすようになる。
渋沢が創設・育成に関わった事業は、明治6年(1873)に設立した第一国立銀行をはじめ約500に及び、約600の社会公共事業(福祉、教育、民間外交など)にも尽力するなど、日本の近代経済黎明期に大きな役割を果たし、日本資本主義の父と称された。
明治12年(1879)には、創立に携わった製紙会社(のちの王子製紙)の工場を見守ることができる飛鳥山に邸宅を構え、内外の賓客を招く場として利用した。渋沢はこの地を愛し、「曖依村荘」と呼び、明治34年(1901)から亡くなる昭和6年(1931)までは家族と過ごす生活の場として使用した。
『渋沢史料館』はその一角に立ち、旧渋沢庭園に立つ大正期建築の「晩香廬」と「青淵文庫」は、国の重要文化財に指定されている。
取材・⽂・撮影=アド・グリーン
『街がわかる 東京散歩地図』より