その空間に足を踏み入れると、BOSEのスピーカーから低音の優雅な音楽が聴こえてきます。中庭の緑を眺めながらティータイムを楽しみたい、そんな気分。ガラスケースの内側に鎮座するのは美しいステンドグラスのランプ。壁面にはこの地を象徴するモチーフ「西海橋や針尾無線塔など」が描かれた彫刻ガラス工芸が配されています。そう、ここはガラスの美術館?
実はこちら、総工費1億円の「おトイレ」です。「音入れ」にかけて、トイレに行くことをレコーディングという婉曲表現がありますが、簡単なライブ配信程度なら本当にできそう。
長崎県西海市の「魚魚の宿(ととのやど)」に隣接、宿泊をしなくても1億円アートを体感できます。
トイレだけでは終われません。「魚魚の宿」からは、西海橋・新西海橋の2つの橋と大村湾の絶景も必見です。(下写真:対岸の西海橋公園から撮影、奥の山林に佇む建物が魚魚の宿)
写真左の赤い「西海橋」は、国内初の海峡横断橋であり国指定重要文化財になっているトラス構造のアーチ橋。歩道と車道の境界はラインのみで段差がなく、徒歩で立ち止まるには少々気が張ります。右の水色の橋が「新西海橋」で西海パールラインという有料道路。その下は遊歩道になっており、ウォーキングと景観を楽しめます。
では、この景色のどこに「スパイラルアート」があるのか。答えは西海橋の下に見える渦巻き、潮の満ち引きが作り出すアート「うず潮」です。
新月や満月には、月や太陽の引力が大きくなることで海水面が動きます。そして、干満差が大きいほど潮流が激しくなり、うず潮が発生します。大潮の時など、日時限定で鑑賞できる神秘的なアートなのです。
「西海橋公園」からは間近に、遊歩道がある「新西海橋」からは次々とうず潮が発生する様を高所から広範囲に観ることができます。
(下写真:新西海橋から観た「うず潮と西海橋」)
生まれては消えゆくスパイラルをじっと観ていたら、思いのほか時が経っていました。長崎を訪れた際には、ユニークな2つのアートをぜひご堪能ください。