『燗屋 tamame.(たまめ)』銘酒「玉川」とともに熟成し続ける空間[千葉]
夜の帳(とばり)が降りる頃、長屋造りの建物に温かな光が灯る。
店に並ぶのは京都の銘酒「玉川」のみ。「直感ですよ」と、店主のあいさんは笑うが、その潔さ、放っておけませんぜって話で。「料理に合わせやすいし、種類も多い。もう、これだけで十分と思って」。
料理はすべておまかせだ。待っている間に「玉川」入りのサワーをゴクゴク呑んでいると、そこへ差し出された前菜は、季節野菜のお浸しや煮物に漬物と、これが滋味深いこと。「実家のお父さんの晩酌みたいって、よく言われます」。
たしかにこの安堵感、半端ない。早々に燗(かん)に切り替え、まったりモードへ。すると、隣のお兄さんから「新しいボトル入れたから、一杯どう?」と声をかけられた。
日本酒をボトルキープできるとか、斬新だな。全力でお言葉に甘え、乾杯。そして談笑。にぎわいとともに夜が深まっていく。
『燗屋 tamame.』店舗詳細
『winestand pedro(ワインスタンド ペドロ)』気軽に立ち寄りたい、ナチュラルワインの給水地[西千葉]
L字カウンターに腰掛ければ、「お好きなワイン、ありますか?」と、店主の大杉洋介さん。聞けば、その時季に合うナチュラルワインを中心に揃えているのでリストがないそう。好みや気分に合わせて注いでくれるので、ワイン素人としては、すごく気楽だ。
まずは白で喉を潤すと、芳醇な果実味がふわっ。併せて濃厚なウフマヨを頬張れば、その相性は言わずもがな。続いて「赤に合わせるなら、これですね」と、出てきたのはライスコロッケ。肉感この上ないラムのボロネーゼがたっぷりかかっていて、まさに赤ワインのための一品と言えよう!
それにしても、客の回転がいい。「みんな界隈をハシゴするのが好きで。ウチは1軒目とか、帰りがけに寄られますね」。口々に今日のトピックを大杉さんに話している。そっか、酒場って日常のコミュニケーションの場だよね。
『winestand pedro』店舗詳細
『稲毛ワイン酒場FLAT(フラット)』ワイン×シュウマイ×人情が妙にクセになる[稲毛]
大通りから見えたかすかな光。向かった先には「ワインと焼売の店」の文字。こりゃ、素通りできねえやつですよ。「僕がシュウマイ好きすぎて」と、店主の佐々木直樹さん。毎日手包みしているって言うから、恐れ入る。登場したシュウマイは、ハリッサ、ショウガ、チーズ、トリュフと薬味が見目麗しい。噛んだら具がほろりと崩れ、肉汁がドバッ。ホフホフ熱さに悶えていると、「オレンジワインで流し込んで」と、直樹さん。かすかな甘みと酸味で口の中がリセットされ、爽やか〜。こうなってくると、赤も飲みたい。しっとり赤身のミニステーキを頬張れば、ああ、酒が進む進む。
気づけば、カウンターが埋まって大にぎわい。常連らしき家族に席を譲ると、「ありがとね、グラス出して」と、ワインを注がれた。なんだこのカジュアルな距離感。妙に温かくて、ほっこりする。
『稲毛ワイン酒場FLAT』店舗詳細
『旬菜旬肴(しゅんさいしゅんこう) 和のか』本格派の技と遊び心に、通いたくなること必至[千葉]
雑居ビルの4階と、なかなか気づきにくい場所だけれど、上がってしまえばそこは天国。北海道と千葉県を中心に、津々浦々から仕入れる旬の味が目白押しだ。
「おひとりなら、3点盛りがおすすめ」と、店主の人見孝司さん。先鋒を飾る季節野菜のお浸しからして夏酒を呼ぶ! 新鮮な刺し身は甘みと旨味が、もう……。ソース不要のホクホク海鮮コロッケには頬がゆるんでしまった。続いて頼んだ部位ごとに分けられた鮎天ぷらは、芳ばしい麦焼酎のソーダ割りでさっぱりいただこう。
すっかりゴキゲンになっているところへ「締めにアテ巻きはいかがですか?」と人見さん。何かと問えば「つまみにもなる細巻き。私の遊びなんですけどね」。この日は野沢菜と天かすの細巻きに、タラコとしらたきの和え物添え。いやいや、これはもう一杯いっちゃう味よ。締められませんて!
『旬菜旬肴 和のか』店舗詳細
取材・文=どてらい堂 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2024年8月号より