「荻窪だったら」食べておきたい名物メニュー
「荻窪のラーメン」と言えば、ラーメン好きな人なら何となくイメージできるだろう。煮干しをベースにしてとったスープに醤油ダレが合わさったすっきりとした味わいで、中太のストレート麺のシコシコとした食感とともに楽しむ、まさに昔ながらの中華そばこそ、荻窪のラーメンそのもの。しかし、『荻窪ラーメン十八番』は一味違う。
荻窪駅北口から歩いて2分。居酒屋が多く立ち並ぶ通りを抜けたところにあるお店にはデカデカと「荻窪だったら」と銘打たれている。そのキャッチコピーの通り荻窪らしい醤油ラーメンもメニューにはあるが、2代目店主の馬塩泰治さんに人気のメニューを伺うと迷わず特製十八番を挙げてくれた。
50年以上続く伝統・手もみの理由とは?
1966年に創業して以来、荻窪の街に愛されてきた『荻窪ラーメン十八番』。創業当時はベーシックな醤油ラーメンを中心としたメニューで人気を博していたというが、看板メニューとなった特製十八番の誕生はなんと突然のことだった。
「このラーメンは実は創業当初、メニューになかったんですよ。当時のスタッフたちによる賄いメニューだったんですが、これを見たお客さんが『食べてみたい!』と言ってくださって。それが始まりでした。」
ラーメン専門店として人気を得た現在とは異なり、創業当時は中華料理店として様々なメニューを提供し、スタッフたちはその日に余った食材で工夫して賄いを作って食べていたという。レシピがなく、まさに料理人としてのセンスが問われるが、ニンニクの香りが食欲をそそり、スタッフのみならずリクエストした常連客にも提供したら大好評。結果、新しい看板メニューとして誕生から、はや四半世紀以上の月日が流れたという。
軽快なリズムで炒められたニンニクと豚バラ、そしてネギとニラがトッピングされたラーメンはまさにスタミナ満点。スープを一口飲んだだけでもガツンとニンニクの味が効いていて、ガッツリ系好きなら虜(とりこ)になるだろう。
そして、『荻窪ラーメン十八番』のもうひとつのウリが、この麺である。
中太でちぢれた麺は製麺された麺を店主自ら手で揉んで、最後の仕上げを施していく。わざわざ製麺された麺をもう一度揉み込むというこの店の伝統ともいうべき製法について伺うと、店主の馬塩さんはこう答えてくれた。
「もともとの麺にこうして揉み込むことで、麺にちぢれを加えているんです。スープともよく馴染むようになるし、麺のコシも増す。一つひとつ手作業で手間がかかりますが、これがこの店の味の決め手なんですよ」
特製十八番のパンチの効いたスープによく絡んだあのちぢれ麺のおいしさの秘密は、店主の手による地道な手もみ作業にあったのだ。
古臭い考えかもしれないけれど……
50年近く荻窪の街に店を構え、今や親子二代、三代で来店するという常連客も増えたという『荻窪ラーメン十八番』。インパクト抜群の「特製十八番」の味の評判を聞きつけて、全国各地からラーメン好きが集まるのでは?と伺うと、馬塩さんは「そうした評判には、実はあまりこだわりがないんですよ」と、笑って語ってくれた。その理由とは……
「僕たちがおいしいラーメンを作っていれば、お客さんはきっとついてきてくれるし、そのお客さんがまた別のお客さんを連れてきてくれる。今の世の中では古臭い考えかもしれないけれど、個人的にはそうした『横のつながり』『人と人とのつながり』を大切にしたいなって思うんです」
ちなみに取材途中、店内に常連らしき女性のお客さんが来店し、メニューを見ることなく特製十八番をオーダー。アツアツのスープを飲みながら、麺をすすり、気が付けばあっという間に完食。馬塩さんの撮影をしている際も「ごちそうさま。写真、男前に撮れた?」と気さくに声をかけて店を後にした。
「馬塩さんの言う『横のつながり』『人と人とのつながり』とはこういうことかも……」
もしかするとニンニクの効いた特製十八番の味は、馬塩さんの荻窪の人たちへの愛が隠し味になっているのかもしれない。
取材・文・撮影=福嶌 弘