荻窪銀座商店街

荻窪駅北口は闇市から発展した新興マーケットがあり、昔から活気があるエリアだ。中でも荻窪銀座商店街はチェーン店や個人の飲食店も多数。近年は若者が集うバーも急増し、以前よりにぎやかで華やかな横丁に変貌している。

先代の想いが詰まった、パワフルな味

夜になると、赤提灯がきらめく荻窪銀座商店街。『鳥もと』や『カッパ』など渋い店が連なるので、レベルが高い飲み屋街に思われがちだが、実はそんなこともない。

「新しいバーができたりして、商店街にも若い人が増えてきましたね」と話すのは、『寄港地』の2代目・江口元氣さんだ。店長となった彼は今、創業者である父の正明さんや家族と共に店に立つ。「父へのリスペクトは……どこかではしているかもしれませんね」とはにかむが、「今はまだないけれど、自分のオリジナル料理も作っていきたい」と、店を背負う責任感をにじませる。

右から、『寄港地』の店長・江口元氣さん(26)、『手もみラーメン十八番』店主・馬塩泰治さん(29)。※カッコ内の年齢は2023年7月時点
右から、『寄港地』の店長・江口元氣さん(26)、『手もみラーメン十八番』店主・馬塩泰治さん(29)。※カッコ内の年齢は2023年7月時点

『寄港地』の向かいにあり、深夜の行列が名物の『十八番』もまた、若き2代目が跡を継いだ店だ。

「この店をなくしたくなかったんです。じいちゃんのラーメン屋はずっと続くものだと思っていました。なので、店を閉める話が出たときに手伝うことを決めました」と、馬塩泰治さん。高校卒業後に店に入り、繁盛店の味を見事に引き継いだ。

さまざまな店が連なる商店街の路地の入り口であり、出口ともいえるこの場所を、元気な若者が守っているとは、なんとも頼もしい。荻窪銀座の歴史はこれからも紡がれていく。

ふらりと立ち寄りたくなる名物酒場『寄港地』

若鶏の元氣焼き1188円、ハイジのチーズパン1枚517円、アボカドの明太グラタン風803円など、酒に合う濃厚料理が満載。
若鶏の元氣焼き1188円、ハイジのチーズパン1枚517円、アボカドの明太グラタン風803円など、酒に合う濃厚料理が満載。

江口正明さんが店を開いたのが2002年。加山雄三ファンであり、出版社の営業マンだった父のこだわりが詰まった店を息子の元氣さんが盛り立て、若い客も増えている。「『元氣焼き』って自分の名前がついた料理があるのは、恥ずかしいですよね」と照れながらも、今日も父命名の名物料理を作る。にぎやかだが、ゆったりできる居心地の良さがあり、これからも荻窪の人々を待つ港であり続ける。

日本酒、焼酎、ワインに泡盛と充実の酒メニュー。
日本酒、焼酎、ワインに泡盛と充実の酒メニュー。
漫画家をはじめ多くの作家が訪れる。奥は広く個室もあり、団体客も大歓迎。
漫画家をはじめ多くの作家が訪れる。奥は広く個室もあり、団体客も大歓迎。

『寄港地』店舗詳細

住所:杉並区上荻1-4-10/営業時間:17:00~ 23:00LO(祝は~ 22:00LO)/定休日:日(臨時休あり)/アクセス:JR中央線・地下鉄丸ノ内線荻窪駅から徒歩2分

深夜に行列ができる「荻窪の味」。『手もみラーメン十八番』

特製十八番950円。熱々のスープの中を、粗めにおろしたニンニクが舞う。ニンニクの匂いが心配……なんてためらいは厳禁!
特製十八番950円。熱々のスープの中を、粗めにおろしたニンニクが舞う。ニンニクの匂いが心配……なんてためらいは厳禁!

ラーメンの街・荻窪においても『十八番』は特別な存在。看板メニューの特製十八番は、まさにソウルフードだ。初代店主が食べていたまかない料理を、ある客が「それ食べさせてよ」と言ったことで提供されるようになったという。その客に感謝するしかない。ニンニクの圧倒的な存在感とジューシーな豚バラ。深い時間にこそ食べたくなる魅惑の一杯に誘われて、今日も店の前に列ができる。

餃子6個500円などほかの名物も見事に引き継いだ。
餃子6個500円などほかの名物も見事に引き継いだ。
「この店はじいちゃんの家という感じでしたね」と馬塩さん。
「この店はじいちゃんの家という感じでしたね」と馬塩さん。

『手もみラーメン十八番』店舗詳細

住所:東京都杉並区上荻1-4-10/営業時間:18:00~翌0:30LO(日・祝は~23:30LO)/定休日:無/アクセス:JR中央線・地下鉄丸ノ内線荻窪駅から徒歩2分

取材・文=半澤則吉 撮影=佐藤侑治
『散歩の達人』2023年8月号より