【コースガイド】
坂が多く、勾配がきついので、身軽で歩きやすい服装が吉。疲れたら無理せず、路線バスを利用するといい。ただし、市内を網羅する伊豆東海バスはICカード非対応のため、小銭を用意しておこう。また、熱海では一年中花火大会が開かれる。
アクセス
JR・私鉄・地下鉄新宿駅から小田急小田原線1時間38分の小田原駅下車。JR東海道線に乗り換え、24分の熱海駅下車。
湯前(ゆのまえ)神社付近の味のある階段坂は、人通りの少ない高台への近道。「よいしょ」と反動をつけ、一段ずつ上る途中、呼吸を整えるために立ち止まり振り返ると、密集する家々の屋根がパズルのピースのようだった。
『石和酒店』の石和宏深さんは生まれも育ちも熱海。地元について語ると、「さまざまな個性がパズルピースみたいに散らばっていて、それが魅力。組み合わせ次第で楽しみ方は無限大」と言葉があふれた。シャッター商店街をリノベーションしたり、移住者が開業したり、町おこしの流れは5年ほど前から勢いを増した。
「駅周辺や熱海銀座商店街は空き店舗がほぼなくなりました。最近は、海に近い渚町が注目されています」と熱気は続く。
熱海のレトロな魅力を令和の感覚でアップデート
渚町のリノベ物件に入る 『nagisArt café』 の斎木香織さんは、市外からの移住者。以前あったシェアハウスの名称「nagisArt」を引き継ぎ、2020年5月に開店した。「この名前を使いたい、と大家さんに伝えたら、泣いて喜んでくれたんです。私もつられて泣いちゃいました」なんて、聞いてるこっちまで目頭が熱くなる。
世代を超えたアツイ邂逅(かいこう)は、ここにも。『サンバード』の内田さん一家が着ているのは、ロゴ入りのトレーナーだ。最初、見知らぬデザイナーが「オリジナルのおみやげを作りませんか?」と持ちかけてきた時、ママは断ったという。しかし若い彼らは根気よく通い、ついに常連に。それを「愛だね」と認めたママは、提案を受け入れるどころか商品のトレーナーをすっかり気に入り、「スタッフ専用の特注カラーも作ってもらったの。いいでしょ?」。なお、メニューは開店当初と同じ。マスターの内田雄巳さんが作るレモンスカッシュは、しっかりとした酸味でさっぱりする。
そう言うと、 涼しい顔で 「そうレスカ」とダジャレ回答。いやぁ、笑わされてばかりでツッコミを入れる隙もない。
湯の恵みが心身にじわじわ染み入る
そしてまた、坂道。この高低差のおかげで、場所によって見える景色が変わる。にしても、日中 『湯の宿おお川』 に寄ったのは正解。貸し切り露天風呂の湯に身を委ね、そばを流れる川の音を独占しリフレッシュしたら、その後も急坂を上り下りできた。個性的なパズルピースにもたくさん会えた。さて、ここから旅の仕上げ。『オーシャンスパ Fuua(フーア)』で相模灘の絶景を抱きしめるのだ。
1 基地 -teshigoto-
地元作家の手工芸品に出合う
県内や隣町の湯河原、小田原など近郊の作家が生んだ作品がずらり。モダンなデザインと和やかな空気を併せ持つ共通した作風があり、「この土地の気質がそういう作家さんを生んでいるのかも」と店主の市田聖子さんはにっこり。ガラスや陶器、木製品と幅広く、おみやげにもぴったり。
●11:00~18:00、火・水休。☎0557-48-7919
2 味里(みさと) 熱海店
旨味炸裂(さくれつ)! 元祖イカメンチ
南部の網代地区に伝わる、イカのすり身を揚げた漁師のまかない飯がルーツ。2016年、網代に本店を持つこの店が、イカメンチを広めるため中央部に出店した。界隈に「イカメンチ」の幟は増えたが、お初なら元祖のここがおすすめ。漁師めし定食2000円。
●11:15~14:15LO・17:00~20:45LO、火休。☎0557-82-8220
3 サンバード
思いが込もった新みやげも誕生
開店は1968年。長年の地元客に加え、絶妙なレトロ感で若者にもウケている。「若い人の考えはおもしろい」とママ・内田香代子さんが褒めるのは、おみやげをプロデュースするブランド「LEGECLA」の横須賀馨介さんと鶴田勇磨さん。店のロゴを配したグッズは旅の思い出をより濃くする。
●9:00~15:00LO、水・月1回木休。☎0557-81-3667
4 長谷川路可(ろか)のフレスコ画
急坂の途中にあり。見逃すな!
道中、旅館の駐車場にフレスコ画を発見。長谷川路可というフレスコ画家が1957年に大浴場の壁画として作成し、80年代まで使用されていたとか。テーマは宇宙神話と壮大!
5 湯前神社
境内の一角が湯気で煙る
平安時代、病を除く効果を持つ温泉がある、と神からお告げを受け、祠を立てたのが発端。鳥居の内側には熱海温泉の源泉とされる大湯が湧き、湯気が上る。御祭神の少彦名(すくなびこな)神は温泉の神でもある。境内自由。
6 湯の宿おお川
浴室にこだまする川音で気分爽快
竹に囲まれた貸し切り露天風呂が名物の温泉旅館。市内を流れる初川の上流付近にあり、浴室に川音が響く。とろりとしたお湯は肌にいいと評判の弱アルカリ性で、源泉かけ流し。手足を伸ばし、坂道を歩いた疲れを癒やそう。
●15:00~23:00、不定休。☎0557-81-6288/日帰り温泉(貸し切り露天風呂)45分間1名1500円(要電話予約)。
7 熱海ほていや
小腹がすいたら地元の定番おやつ
1947年から愛されてきた蒸しパン専門店。バリエーションが多く、毎日14種前後店頭に並べられる。お昼時にまとめ買いする人もいて、人気の「栗」1個138円を筆頭に早々と売り切れる商品も。外側に甘いトッピングを施した二層構造が特徴。
●9:00~23:30、無休。☎0557-82-2221(マックスバリュ熱海店)
8 nagisArt café
季節を味わえるキッシュ専門店
目当ては、他にはあまりないデザート系のキッシュ。旬を取り入れ、その都度レシピを更新するためメニューは日によって異なる。生地に宿るほのかな塩気がフィリングの甘みを下支え。スープと一緒に食べる食事系キッシュも人気だ。食事系は持ち帰り可。
●11:30~17:30LO(土・日・祝は10:30~)、火・第1・3水休。☎0557-55-9321
9 石和酒店
酒への愛、地元愛が止まらない
日本酒など県内の酒が充実。どれにするか迷って質問すれば、答えを倍も返してくれる。その気さくさは、まさに「まちの酒屋さん」。「静岡県は横に長く、地域ごとに個性が分かれます」と看板娘・石和宏深さん。ナチュラルな味わいのワインにも力を入れる。
●8:30~19:30(水は17:00~)、第1・3水休。☎0557-81-2313
10 和田たばこ店
年代物のゲーム機が並ぶ駄菓子屋
女将と共に親子で店を営む和田好充さん曰く、「元々父が仕事でゲーム機をレンタルしていたんです」。しかし取引先のホテルや旅館が次々閉館し、引き揚げた。2006年、「倉庫で眠らせておくのはもったいない」と店に並べたところ話題に。年代物ゆえ、動かす前に「遊び方」を読んで。
●10:00~17:00、不定休。☎0557-83-6000
11 オーシャンスパ Fuua
水平線を見下ろす絶景露天風呂
何と言ってもこの開放感! 長さ約25mと国内最大級の露天立ち湯からは、相模灘を一望できる。お湯は塩化物泉で保温効果が高く、風呂を上がった後も体の芯からぽかぽか。カフェや遊技場のある休憩エリアを館内着でゆるく巡るのも醍醐味の一つだ。
●10:00~22:00、不定休。☎0557-82-0123/入館料2500円(17:00~は1500円)。
12 Le palais(ルパレ)あたみバール
渚町にともる癒やしの灯り
路地裏の小さなワインバー。店主・宮野淳美さんの穏やかな声が、ほろ酔いの心をさらに解きほぐす。ワインはスタンダードなものから自然派まで、常時40種前後を揃える。ゆっくりグラスを傾けるのもいいし、食後に立ち寄り、締めの一杯か、デザートがわりに甘めのタイプを選ぶのもいい。
●14:00~22:00、水休(不定休あり)。☎090-2174-6614
【泊まるならここ!】 ロマンス座カド
映画館『ロマンス座』の角で営業
熱海銀座商店街の中程にあり、旅の拠点としても完璧。かつて1階に熱海芸者御用達の呉服屋『東宮』があったそうで、その上階の住居部分をゲストハウスにリノベーション、2019年にオープンした。部屋ごとに内装を変えるなど、熱海らしい雑居感が満載。朝食は、目の前の干物屋で好きなものを買って、自ら焼いて食べるのが楽しい。
●IN15:00~21:00・OUT~11:00、不定休。☎0557-82-0389(ゲストハウスマルヤ)/1泊1人7920円~(素泊まり)。要予約。
取材・文=信藤舞子 撮影=鈴木奈保子
『散歩の達人』2021年4月号より