フレンチとラーメン、そして鯛が出合ったら
シックな雰囲気の店内。照明もオシャレなものが吊り下げられている……。少しばかり緊張してしまうが、券売機の存在に“いつものラーメン店”を感じ、なんだか安心する。
券売機で購入したのは鯛を使用した担々麺、その名も“鯛担麺”。そちらと鯛めしがセットになったランチセットA1100円だ。ランチセットでは0~3辛、そして激辛まで無料で選べるので、お好みで店員さんに伝えよう。今回は、初心者向けの1辛をチョイス。
テーブルへ運ばれてきたのは、ざらりとした質感の上品な黒い丼。そこには、なんとも華やかで美しい“作品”が広がっていた。
低温調理で旨味が凝縮された薄切り豚チャーシューのほか、まろやかな鶏チャーシューもトッピング。仕上げにかけられたバルサミコ酢で、高級感はさらに増していく。やはりどこか、フレンチを目の前にしたような気分。
そして丼の中心には、甜面醤(テンメンジャン)などを練り込んだ豚ミンチが添えられている。一口目はこちらをとかず、スープや麺を味わうのがおすすめ。
まずは、スープからいただきます。
濃厚な甘みが、じんわりと舌の上に乗る。それでいて余分な脂はなく、するりと飲めてしまうのが不思議だ。そう、この甘みは鯛のだしから出ているもの。このスープにこそ、鯛担麺のネーミングの由来となった“鯛”がふんだんに使われているのだ。厳選した愛媛県・宇和島産の鯛は、深い甘みと程よい脂が特徴的。
この濃厚なスープがよく絡まるよう、汁ありの鯛担麺では縮れ麺を採用している。この麺や具材に絡めたり、れんげですくって丁寧に味わったり。スープを口に運ぶテンポがどんどん速くなってしまう……。
——ちょっと待った。どうか、このスープを少しばかり残しておいてほしい。このランチの最後に、たまらない楽しみがあるのだから。
鯛づくしのランチに、最後の一口まで夢中
『恋し鯛』の、いわば“コース”とも言えるランチセット。メニューはA〜Eと幅広く、いずれにも鯛めしがついてくる。
鯛塩濃厚そば930円に使われるかえしと、鯛担麺でも味わった鯛だしで炊かれたご飯。その上に、軽くあぶった鯛の刺し身2切れが、贅沢に乗せられている。シンプルでありながら、とても豪華な一品だ。この鯛めしもまた、食べ始めたら箸が止まらない。
——はい、ちょっと待った。鯛めしでも、少し箸を止めてほしい。最後に、せめて二口分だけでも、とっておいてほしい……。
ここで、先ほどの鯛担麺のスープを、残りの鯛めしにかけてみよう。鯛づくしの濃厚リゾットの完成だ。れんげの止まらない鯛だしスープと、箸の止まらない鯛めしのコンビネーション。おいしくない訳がない。
ごちそうさまと手を合わせる瞬間、「スープも鯛めしも、我慢してとっておいてよかった……」きっと、そう思ってもらえるはず。
ランチセットB1100円では、さらに濃厚な鯛だしの汁なし鯛担麺を味わえる。特に暑い日によく出るそうで、汗をかくような日は、この汁なし鯛担麺のガツンとした味わいが、スタミナをつけるのにぴったりだ。
ほかにも『恋し鯛』では、月1回ほどのペースで期間限定メニューを展開。これは何度も通いたくなる……。
フレンチの技と情熱が注がれた“作品”を、ご賞味あれ
2020年7月、『恋し鯛』は14年以上の経験を積んだフレンチシェフの監修で誕生した。それぞれの料理には、フレンチの技と情熱が注ぎこまれている。
このお店のメニューは全て、盛りつける器からトッピングする具材の最後の一つまでが、一皿の“作品”となってテーブルに運ばれてくるのだ。
そして、お店が立て込んでいるとできない時もあるが、お客さんがお店を出るときには、なるべく出入り口まで見送りをするという接客にも、フレンチの店さながらの丁寧さが漂っているのを感じる。
しかし、店長の菅原柊哉さんはこう話す。
「気負って来店される必要は全くありません。私たちスタッフもラーメン店らしく、元気な声がけをしていますよ」
そう、食べたいときにフラッと来店してOK。もちろんドレスコードも不要なのでご安心を。そして、これだけ鯛だしを味わいつくせるのに、リーズナブルなのもうれしい。
大規模イベント会場のほか、大学や専門学校、オフィスもひしめく水道橋。ランチ時には学生や社会人が多く詰めかけ、すぐに席が埋まる。
実は菅原さんも、このお店の鯛担麺に惚れ込んだ一人。
「最後の一口まで飲み干したくなるラーメンスープに、初めて出合いました。これまで食べてきたラーメンとは全く違うなって」
フレンチとラーメンとの出合いから生まれた、『恋し鯛』のおいしい作品たち。もっともっとたくさんの人に知ってもらおうと、SNSでの発信も盛んだ。期間限定メニューや新メニューは、ぜひこちらでチェックしよう。
今度来たときは、この場所でどんな作品を味わえるんだろうか……。楽しみで仕方ない。
取材・文・撮影=aki