コシの強い、“東京伊勢うどん”

この店の定番メニューは、なんといっても東京伊勢うどん700円。

三重県・伊勢に伝わる伊勢うどんに、独特のアレンジを加えた一品だ。伊勢うどんといえば、太く、コシがないことが特徴。しかし「東京」と名の付く『二代目甚八』のうどんは、一味違う。

メニュー。卵や肉をトッピングとして選べることもできる。卵をのせると800円、肉をのせると980円、両方のせると1080円だ。
メニュー。卵や肉をトッピングとして選べることもできる。卵をのせると800円、肉をのせると980円、両方のせると1080円だ。

店長の久須美慶次(くすみ けいじ)さんが言う。

「ふつうの伊勢うどんよりも、コシがあるのが特徴です。また、麺もどちらかといえば細い。伊勢うどんでありながら、讃岐うどんに近い特徴があるかもしれません。伊勢うどんに独特のアレンジを加えているので、“東京伊勢うどん”、と命名したんです」

卵と肉をのせた“東京伊勢うどん”。黒い器に、白い麺と黄色い卵が美しく映える。
卵と肉をのせた“東京伊勢うどん”。黒い器に、白い麺と黄色い卵が美しく映える。

一口食べて強烈に感じるのが、甘みを含んだタレの味。伊勢うどんのもう一つの特徴は、たまり醤油を用いたタレにある。

「東京伊勢うどんのタレに用いているたまり醤油も、伊勢うどんの本場・三重県から直送しています。そこに、関西風の出汁を合わせて、通常の伊勢うどんよりも、より甘みの強いタレを作っています。ここも伊勢うどんにちょっとアレンジを加えています」

タレとうどんは適度に絡まり、絶妙なハーモニーを醸し出している。また、トッピングとして添えられている柚子の香りが、このタレの甘みを引き出していて、ちょうど良いアクセントだ。

『二代目 甚八』オリジナルの東京伊勢うどんは、伊勢うどんのエッセンスを生かしつつ、独特の味わいを持っている。

「食べたいものを食べたいように」を意識して

うどんの麺が細くなっているのは、茹で時間を短縮する目的もあるという久須美さん。

「昼時は、近所に勤めている人たちで店が混むんです。そのときに、なるべくお客さんを待たせないような工夫として、麺を細くしました」

お客さんに満足してほしい。細い麺には、そんな思いが込められている。

和モダンなたたずまいのお店。ランチどきには、多くのお客さんでにぎわう。
和モダンなたたずまいのお店。ランチどきには、多くのお客さんでにぎわう。

「それからメニューも、普通のうどんだけでなく、いろいろな種類のうどんも取り入れるようにして、お客さんが飽きないようにしていますね。うちの店はリピーターさんが多くて、週2回来る人もいるんです。そういうこともあって、いろいろなメニューを増やしていきたいと思っています」

確かにメニューを見ると、伊勢釜玉バターうどん900円や伊勢定食1460円など、さまざまなメニューが。

伊勢釜玉バターうどんは、伊勢うどんの釜玉うどんにバターがのせられているものだ。
伊勢釜玉バターうどんは、伊勢うどんの釜玉うどんにバターがのせられているものだ。
伊勢定食には伊勢うどんに、小海老とあおさのかき揚げやひじきご飯などが付いている。
伊勢定食には伊勢うどんに、小海老とあおさのかき揚げやひじきご飯などが付いている。

「食べたいものを、食べたいように、ということを意識しているんです」

さまざまなお客さんが来る中で、それぞれのお客さんが心ゆくまで、好きなものを食べられるようにしたい。その思いが、こうしたさまざまなメニューを生み出す。

鈴鹿の地から、東京へ

元々、『二代目 甚八』という店名は、三重県鈴鹿市にあった伊勢うどんの店『甚八』が、東京に進出したときに付けられたもの。2022年、運営が変わるという出来事があった。その時にメニューを増やしたり、麺の太さを変えるなどといったアレンジが行われたのだ。

「とはいっても、マイナーチェンジです。大元は、元々のお店、さらに鈴鹿の店のやり方を引き継いでいます。今でも鈴鹿の『甚八』から麺やたまり醤油を直送していますしね」

鈴鹿の店の伝統を引き継ぎつつ、少しずつ、現在のお客さんに合うようにお店の姿を変えていく。

そんな『二代目 甚八』だが、これから、どのようなお店にしていきたいと考えているのか。

「近所に小学校があったりして、子連れのお客さんも多いんです。そうしたお客さんや、近所の人々が、ふらっと来られるような場所になったらいいな、と思っています。少し考えているのは、お店に駄菓子を並べるのはどうかな、と(笑)」

お店ではソフトクリームも提供する。ソフトクリームマシンは、外国産のこだわったものを使い、デザートメニューまで力を入れている。
お店ではソフトクリームも提供する。ソフトクリームマシンは、外国産のこだわったものを使い、デザートメニューまで力を入れている。

実際、店の周りには住宅が多く、さまざまな人が住んでいる。近所の人々の憩いの場所になること。それが、久須美さんの考えるお店の未来だ。

鈴鹿からの伝統を継承しつつ、この本郷三丁目の地により根付いていく。思えば、「東京伊勢うどん」という名前も、そのことをよく表しているのかもしれない。「伊勢」と「東京」で生きていく。『二代目 甚八』は、そんな思いを持ちながら、今もお客さんを迎えている。

店主の久須美慶次さん。日夜、お客さんが立ち寄りやすい店にするために奮闘する。
店主の久須美慶次さん。日夜、お客さんが立ち寄りやすい店にするために奮闘する。

取材・文・撮影=谷頭和希