『麺屋鈴春』の味を生み出すまでの苦悩
取材当日はお昼過ぎにお店に伺ったが、ランチのピークタイムを過ぎたこの時間でも店内はほぼ満席。来店早々、『麺屋鈴春』の人気の高さがうかがえる。
店主の鈴木勝明(すずきかつあき)さんは、東京を代表する有名ラーメン店『麺屋一燈』出身。同店で約8年ほど修業を積んだ後、「自分の店を持ちたい」という強い思いから、2020年9月に独立した。
『麺屋鈴春』のコンセプトは、“毎日食べられるラーメン”。しかし、これにふさわしい味を確立させるのは、名店出身の鈴木さんの腕をもってしても相当骨の折れる仕事だったそう。
「くど過ぎず淡白過ぎない、絶妙なバランスのスープを作りたくて。さらに僕は鶏ベースのラーメンが好きなので、自分の嗜好もそこに加えたい。これらの要素を全てを網羅したスープを完成させるまで、本当に試行錯誤を重ねました」
時には共に店を回す家族から、スープの味について辛辣な意見をもらうこともあった。しかし、トライ&エラーの末、ついに誰もが納得のいく今の味に辿り着いたのだ。
実力派の店主がこだわり抜いた末に完成したラーメン、これは期待が高まる……!
好みの油を選べる、ふくよかな鶏の旨味が際立つ極上塩つけ麺!
取材当日はやや蒸し暑く、汗が滲むような気候だったので、今回はつるりといただけそうな塩つけ麺(200g)1200円をチョイス。
『麺屋鈴春』では、つけ麺をオーダーするとつけ汁に入れる油を選べるんだとか。
程なくして着丼したつけ麺を見て、まず麺のビジュアルに圧倒された。麺の艶やかなラインの美しさたるや。昆布水に浸った中太麺は、名門『心の味食品』のストレート麺を採用。華麗にまとまった麺を崩すことに若干の罪悪感を感じつつ、まずはそのままつるりと一口。
期待を裏切ることなく、喉越しがよくコシも抜群の中太麺は、単独で食べても美味! さらにかき油を追加したつけ汁にくぐらせれば、文句なしの至高の味わいを堪能できる。
鈴木さんこだわりのつけ汁は、つけ麺には珍しいさらりとした口当たりが特徴的。鶏出汁の旨味と奥深い塩味がガツンと伝わってくるが、麺と一緒に食べるとそれらが程良く中和され、重さを一切感じずにいくらでも麺をすすれてしまうのだ。
かき油は煮干しからもしっかり出汁を取っているというだけあり、かきをメインに仕立てながらも、魚介の濃厚なコクが絶妙なバランスでブレンドされている。つけ汁との相性も完璧に計算されており、これはクセになる……!
千葉県産の銘柄豚、『林SPF』の上質なロース肉を使った豚焼豚は、ほんのり甘い脂の上品な味わいから、その質の高さがうかがえる。もちろん味付けも抜群。
鶏胸肉は肉の旨味をシンプルに味わえるよう低温調理されており、口の中でほどけるしっとり食感が絶妙だ。味がしっかり染み込んだ極太メンマも絶品で、気がつくとあっという間に完食していた。
各素材の旨味をしっかり引き立てて作られたこの店のつけ麺、これはファンが続出するのも納得。
何度来ても飽きない理由は、店主の創意工夫にあり
「オープン以来、“お客さんを飽きさせない工夫”を常に考えています。この工夫を凝らすのが本当大変なんだけど、お客さんから“おいしい”って言われると、頑張っちゃうんだよね」
そう語る鈴木さん。当初は2種類程度だったつけ麺の油も、日を追うごとに種類を増やした。毎週金曜日には、普段とはテイストをがらっと変えて、二郎系ラーメンの提供も行っている。
「気がつくとどんどん仕込みが大変になってるけど(笑)、雨の日でもランチの行列に並んでくれるお客さんの姿を見ると、もっと頑張ろうって思います。うちの味を気に入ってくれるお客さんのために、うまいものを提供し続けたいから」
1日3食ラーメンでも大丈夫という、生粋のラーメン好きである鈴木さんの“うまいラーメン”への探究心は止まるところを知らない。
スープが一緒でも、油を変えれば旨味も風味もガラッと変わる。自分好みの組み合わせを見つけるまで、何度でも通いたくなる。鈴木さんの創意工夫が功を奏して、『麺屋鈴春』はオープン以来、足繁く通うファンを何人も獲得してきた。
本郷三丁目を訪れた際は、ぜひ実力派ラーメン店『麺屋鈴春』に足を運んでほしい。この店のラーメンを一度でも食べれば、きっと誰もが「次は何を食べよう」と、さらなる出合いを心待ちにしてしまうはずだ。
取材・文・撮影=杉井亜希