【今回の最古:ウインナーコーヒー】

入るのに躊躇しそうな路地には素敵なお店が並ぶ。
入るのに躊躇しそうな路地には素敵なお店が並ぶ。

たくさんの車や人が行き交う靖国通りから一本入った場所で、車の入れない路地なので表通りの喧騒が嘘のような落ち着きがあります。

お目当の『ラドリオ』の店名は、スペイン語で「レンガ」の意味。その名の通り、レンガ造りの外観で、路地の中でも重厚で大人な雰囲気が色濃く漂っています。

創業は1949年。昭和から令和まで70年以上にもわたって変化の大きな東京を見つめてきた歴史があります。

店内は読書にもぴったりの空間

筆者が一番好きな席。
筆者が一番好きな席。

古書店が軒を連ねる神保町で長く愛されてきた同店は、店内での読書にもぴったりの雰囲気。

耳をくすぐるBGMはシャンソンが中心で、以前は「シャンソン喫茶」として有名だった名残ですが、店長が変わってからは他のジャンルの音楽もかかるようになったそう。

カウンターやテーブル席がある中、私のオススメは奥の一人テーブル席。半個室のようなプライベート感があって、本の世界に没入できます。

深い茶色と赤いソファの調和が素敵な店内。
深い茶色と赤いソファの調和が素敵な店内。

読書の途中にコーヒーを口にして周囲を見渡せば、歴史の染み込んだ針や柱、古いヨーロッパのパブを思わせるような調度品が並んでおり、異国の別時代にトリップしたような気分にさえなることも。

これらは、かつてこのお店に入り浸った芸術家たちが持ち込んだものもあり、飲食代の代わりに作品を置いて行くこともあったとか。

川端康成や三島由紀夫をはじめとする、多くの作家や芸術家に愛されたエピソードは枚挙にいとまがありません。

これが世界初のウインナーコーヒー

ふっくらとした生クリームたっぷり。
ふっくらとした生クリームたっぷり。

そして、『ラドリオ』発祥のメニューがウインナーコーヒー600円。

コーヒーというと海外生まれのイメージですが、このメニューには初代店主の臼井愛子さんの思いやりが入っていました。

場所柄、文芸談義に熱の入る人や読書に耽(ふけ)る人の多いお店。

注文したコーヒーがいつの間にか冷めてしまうなんてこともしばしばです。

臼井さんはそうした人たちのために、コーヒーに生クリームで蓋をして冷めにくいようにしたのです。

メニューに加わったのは創業して間もない頃で、当時はまだ珍しかった生クリームを使ったドリンクに、多くのファンができました。

そのクリームは優しい甘さで、コーヒーのキレを邪魔しないだけでなく、まろみとコクを加えてくれます。

なお、カップの置き方にまでこだわっているのがラドリオ流。

持ち手を左に置くのは、右手にスプーンを持ってクリームをスプーンですくいながら飲めるようにという思いがあるとのこと。

「神は細部に宿る」と言いますが、ここまで細かい部分にまで気を配っているからこそ、長年愛され続けるのでしょうね。

本を片手に新しい世界を覗こう

文芸から写真集までバラエティ豊か。
文芸から写真集までバラエティ豊か。

オススメの利用方法は、それぞれの好きな本を持ってゆっくりと読みながら過ごすスタイル。

しかし、店内にも様々な本が常備されているので、気まぐれに手に取ってみると素敵な出会いがあるかもしれません。

「恋愛は日常に対して垂直に立つ」というのは私の好きな作家である中島らも氏の言葉です。

ネットの利用履歴から似たようなオススメが提示される世界に私たちは暮らしていますが、喫茶店でふと見かけた本から、新しい世界の扉が開けば、生活の彩りは全く予想もつかない輝きを見せるはずです。

そういう偶然に身を任せてみるのも楽しいのではないでしょうか。

神保町でも名店とて名高い『ラドリオ』ですが、サイコメグラーとして最古リストに並べてみるとまた違った魅力が見えてきます。

神保町の喫茶店巡りもとても良い時間が過ごせますが、最古巡りもオススメします!

写真・文=Mr.tsubaking