ジュエリーデザイナーが営む鶏ラーメンの店
国道4号から清洲橋通りに抜ける通りを歩くと、メニューを記載した立て看板が見えてくる。御徒町は宝石問屋が多いことでも知られるが、この辺りもアクセサリー工房や作業場が点在する。近隣の公園には学校帰りの子どもたちが遊び、駅周辺のにぎやかさとうってかわって静かな住宅地が広がる。
店舗はマンションの1階にある。扉の先にはスタイリッシュな空間が広がり、ラーメン屋というよりカフェやバーのような雰囲気だ。
出迎えてくれたのは店主の長澤みちとさん。ジュエリーデザイナーとラーメン屋店主の二つの顔をもつ。「もともとジュエリーの制作会社を経営していますが、飲食業も事業部として広げたいというのがあり、大好きなラーメンでの開業を決めました」と話す。
飲食はゼロからのチャレンジということで、『一風堂』をはじめ、4店舗のラーメン店で3年ほど修業を積み、その中で自分が出したい味を決めていったという。「雲南料理に汽鍋鶏(チーコージー)という鶏肉を使った伝統の鍋料理があるのですが、この料理が好きで、これに着想を得て鶏ダシと生姜を使ったラーメンを作ることにしました」と長澤さん。
こうして、仮店舗で営業をしながら準備を進め、2022年8月にこの地に念願の店をオ ープンさせたという。
鶏清湯の黄金スープが絶品。生姜の刺激もアクセントに
メニューは、とりジンジャーの塩、または醬油味を基本とし、トッピングや麺違いでラインナップしている。初めてならこの店の基本の味といえる、生姜香る塩ラーメン とりジンジャーを味わってみたい。
鶏ガラやモミジをベースにした、透明感のある清湯スープ。一口味わってみれば、見た目以上にしっかりとした味で、鶏の旨味が口の中に広がっていく。浮いている生姜パウダーを溶かしてみると、濃厚スープに適度な刺激を与えてくれる。
味の決め手である生姜パウダーは、高知県の生姜農家が作っているものを取り寄せている。生姜を皮ごと蒸して乾燥させてからパウダー状にした「ウルトラ蒸しショウガ」だ。ショウガオールという成分がたっぷり含まれており、体を芯から温めて代謝アップも助けてくれるという。
好みに合わせて追いジンジャーをすれば、ピリリと刺激も増し、味変を楽しむことができる。
このスープに合わせる細ストレート麺は、長澤さんが厳選して選び抜いた、三河屋製麺の麺を使用している。スープとの相性と仕上がりのバランスを考えながら、長澤さん自身が何度も試食を重ねて決めたという。
普通の麺のほかに、グルテンフリー麺も用意しており、ここにも健康的に味わってもらえる1杯を目指す長澤さんのこだわりがあらわれている。
トッピングや締めご飯にも注目!
トッピングは、煮玉子や鶏チャーシュー、メンマや海苔などいたってシンプルだ。
自家製の鶏チャーシューはスライサーで薄くカットしているため、鶏スープの旨味を吸い上げてジューシー。鶏胸肉を使っているが、低温調理しているためプリプリとした食感もある。
煮玉子は、昆布締めした半熟玉子。卵本来の甘さがさらに増し、半熟なのでトロリとした黄身が、口の中いっぱいに広がりまろやかだ。
お腹に余裕があるならば、残ったスープはとり茶漬け風ご飯110円で味わいたい。ほぐした鶏肉と海苔、ゴマがふりかかったご飯で、スープを入れて味わえば最後の1滴まで余すところなく堪能できる。
店主の美的センスがピリッときいた店内
白壁に間接照明、木のテーブルとシンプルながらも雰囲気のある演出の店内は、ジュエリーデザイナーでもある長澤さんのセンスが光る。
券売機横に設けられた円卓は、実はお客様や業者との打ち合わせに使うためのテーブルでもある。「地金素材から仕上げまで徹底的にこだわり、最高品質のネームジュエリーを作っています。販売はホームページのみで行っているのですが、いつの日かこのテーブルの近くにアクセサリーの見本を並べて、ラーメンを食べにくるお客様にも知っていただける場所にしたいと思っています」と長澤さん。
ラーメンとアクセサリーという全く異なる分野だが、完成度の高さや繊細さが感じられる1杯は、長澤さんらしさがあらわれている。今度訪れた時には、長澤さんが作るアクセサリーを手に取る楽しみもできるかもしれないと、今からワクワクする。
取材・文・撮影=千葉香苗 構成=アド・グリーン