自作ラーメンマニアだった経験豊富なシェフがラーメン店を
目黒駅からは目黒通りを走るバスを利用して、気になる名前のバス停、元競馬場で降りる。そこから北上する油面地蔵通り商店街のほぼ端にできたのが『Ramen Break Beats』だ。銭湯「大塚湯」と同じビルに入っていて、入り口が隣り合っている。
店主の柳瀬拓郎(やなせたくろう)さんは、イタリアンやフレンチ、和食の修行をしたのち、カナダへ移住。8年ものあいだ、トロントの日本食レストランでシェフとして働いていた。日本食とはいうものの「外国人に合わせて、盛り付けも見せる料理が多かったです」と話す。
カナダへは永住する心づもりだったが、2020年に訪れたのがコロナ禍だ。街はロックダウンされ、レストランはテイクアウトのみに。腕を振るう場所を失った柳瀬さんが、自宅でのめり込んでいったのがラーメン作りだった。スープはもちろん、麺まで作ったというから、たいへんなハマり具合だ。
ちょうど子どもが産まれるタイミングが重なり、日本への帰国を決める。カナダよりも、日本の方が家族が落ち着いて生活できるだろうと踏んだのだ。試行錯誤してきたラーメンなら、コロナの影響を受けづらいと考えた。妻の地元、目黒を拠点に決め他のは目黒という土地なら、国産の安心できる材料を使ったラーメンに、見合ったお金を払ってくれる人も多いだろうという気持ちもあった。
「目黒は人の雰囲気もいいですよね。駅から離れていることを心配してくれた人もいましたが、この辺りは住宅地で、家族できてくれる人もいますね」
店の場所探しには1年ほどかかったが、どこかほのぼのした油面地蔵商店街が気に入っているそうだ。
九州の食材を中心にフランス料理の手法も取り入れた贅沢な一杯
柳瀬さんは自身の出身地である福岡や九州の食材を多用している。醤油ラーメンのスープに使っているのは、熊本のブランド地鶏、天草大王だ。天草大王は水炊きによく使われるが、実は昭和の初期に一度絶滅。その後、熊本県農業研究センターによって復元された幻の鶏だ。
『Ramen Break Beats』ではその天草大王を中心にとったスープに、さらに肉や野菜、卵白を入れるコンソメスープと同じ手法で作っている。フランス料理の経験を持つ柳瀬さんの経験とスキルが生かされたスープは、透明感があり、まろやかに仕上がっている。
スープ以外にも手をかけた要素のすべてが特上醤油らぁ麺に詰まっている。チャーシューは群馬のブランド豚であるせせらぎポークのロースを使った低温スモークチャーシュー。塩でマリネした後、タンパク質が固まらないように60度ほどで火を入れるので、薄いピンク色に仕上がって見た目も美しい。スモークの香りが鼻に抜けていく瞬間がたまらない。
他にも柔らかさに目を見張る鶏胸のチャーシュー、バーナーで焦げ目をつけた鶏のグリル、絶妙な歯応えのフライドえのきに、プルプルしたワンタン、箸で割ると黄身が流れ出そうな茹で加減の卵まで。ひとつひとつ心して味わいたいトッピング揃い。流れの揃った中細の麺も含めて、澄んだスープと引き立て合うように美しく盛り付けられている。トロントで現地の人たちが喜ぶ盛り付けを演出してきた経験がここで生きているのだろう。
材料へのこだわりについて聞いてみると「やっぱり地元から届いた新鮮なものでスープを作るのはワクワクします」と柳瀬さんは言う。天草大王以外にもスープに鴨を入れたり、他の地鶏を使ったりと、時に材料を変えて試行錯誤は欠かさない。
スモークチャーシューをたっぷり食べられるサイドメニューも
サイドメニューとして人気なのは、炙りマヨチャーシュー飯。スモークの効いたチャーシューをご飯の上に、隙間なく並べて自家製マヨネーズでドレスアップ。さらにバーナーで炙っている。香りのいいチャーシューが存分に食べられて350円。ラーメンに合わせるなら、きっちりお腹を空かせて挑みたいところだ。
塩らぁ麺用に醤油らぁ麺とは別にしじみやホンビノス貝を使ったスープを準備。そのほか定期的に趣の変わった限定らぁ麺も提供するなど意欲的だ。オープンからまだ数ヶ月だが、すでに近所の人がリピートし、週末には行列ができる。今のうちに食べておきたいニューフェースと言えそうだ。
取材・撮影・文=野崎さおり