『神林先生の浅草案内(未完)』

観光客の知らない浅草 とっておきの名店たち

神林桂一 著/ プレジデント社/ 1540円+税

教員生活43年。食べ歩き、飲み歩き歴46年。都立浅草高校の国語教師・神林桂一さんが足しげく通って愛した、浅草の飲食店をまとめた一冊。
神林先生は、ただの“食通”ではない。職場の若い先生や同僚たちに浅草の食文化を知ってもらうべく、「浅草にいるあいだに絶対行くべき店」「浅草周辺 ご飯物ランキング」などさまざまな切り口で、ワープロで自作した『ミニコミ』の発行を通して熱心に発信してきた。本書はその『ミニコミ』をもとに、神林さんのとっておきの名店が紹介されている。
ページをめくるたびに飛び込んでくるのは、店主や常連客との間で交わされる「生きた会話」。神林さんの驚くべき情報収集力の高さ、好奇心旺盛さ、そしてなんといっても、浅草の街への愛情深さがあふれんばかりに伝わってくる。
だが今後もますます情報発信を、と意気込んでいた矢先の2020年8月、神林さんは突如この世を去ってしまった。タイトルに記される(未完)の文字には、"更新されることのない途中経過の記録"の意味を感じ取れる。
たっぷりの茶目っ気とウィットに富んだ筆致で綴(つづ)られる浅草の街や、そこに生きる人々の姿とともに、会ったことのない神林先生の実像がありありと浮かんでくる。カウンターに腰掛ける姿、時には店のママと談笑。掲載された写真の姿はどれも、なんとも幸せそうないいお顔なのだ。ページをめくりながら思わず頬がゆるむ。『ミニコミ』のモチーフがちりばめられたブックデザインも美しい。(吉岡)

『命知らずの湯  半死半生でたどり着いた幻の秘湯たち』

瀬戸圭祐 著/ 三才ブックス/ 1650円+税

全国の野湯60数湯を紹介。「野湯」とはその湯を商業利用していない、自噴する温泉のこと。筆者は最低でも寝湯できることを条件にしている。自力で湯船を作ることだってあるワイルドさ。場所は明記せずN市とかE川といった表記ばかりだが、その写真や文章につい引き込まれてしまう、野湯探し疑似体験書だ。(土屋)

『町田忍の銭湯パラダイス』

町田忍 著/ 山と溪谷社/ 1540円+税

『散歩の達人』本誌にも登場いただいている銭湯博士こと町田忍さんによる銭湯案内。東京ならではの“宮造り銭湯”や江戸時代創業銭湯、地方のゲキシブ銭湯など、今訪れるべき銭湯を紹介している。なかでも目を見張るのは、町田氏のコレクションの数々。江戸時代の銭湯ジオラマをはじめ、ケロリンやペンキ絵のコラムと読み応えたっぷりだ。(町田)

『江戸・ザ・マニア』

浅生ハルミン 著/ 淡交社/ 1980円+税

おもと、盆石、鷹匠、江戸和竿、金魚……江戸趣味の達人たちをイラストと文章で紹介する24話。帯には「シブい趣味に会いに」とあるが、カーポートを温室に変えたおもと栽培家、春から秋まで4時間睡眠という蝶尾(金魚の一種)愛好家と、達人はみな熱い。著者も書く通り枯れていてはとうてい続かない世界。(武田)

『散歩の達人』2022年1月号より

『散歩の達人』本誌では毎月、「今月のサンポマスター本」と称して編集部おすすめの本を紹介している。2020年も年の瀬にさしかかり、いよいよそれを一斉公開する時が来たと言えよう。ひと月1冊、選りすぐりの12冊を年末年始のお供に加えていただければ幸いである。