“カフェから食堂”へ、故郷に戻って装いも新たに出発
本川越駅から徒歩15分ほど。繁華街である「一番街」を抜けると、「芸者横丁」とも言われていた「弁天横丁」が見えてくる。ここにはかつての街並み、長屋の姿が残っている。川越では現在こうした長屋の文化を残すべく、リノベーションした建物を活用したまちづくりを進めている。その一角に『トモリ食堂』はオープンした。
「そもそもここの場所に出店が決まったのも本当にご縁だったんです。日頃からお付き合いのあった作家さんを通じて、この場所を知り、あっという間に店を開くことになりました」と笑うのは店主の田代友里さん。故郷が川越に近いことから、いつか都心から暮らし慣れた故郷に戻りたかったそうだ。そんなタイミングでこの場所に出合えたのも何かの縁なのだろう。
飲食店やカフェで修行を積みながらも開業を目指し、開業後もダブルワークを重ねていた田代さんは、自分なりのこだわりを持つ情熱的な店主だ。器にもひとつひとつこだわりを持ちセレクトし、内装も世界観を大切にセルフビルドをしたそうだ。
「温かみのある、落ち着く内装だったり、飲食店に訪れたからこそときめく器を選んでいます。お店で取り入れている作家さんの作品は店頭でも販売していますよ」
こうした作家さんたちとは旧店時代からもお付き合いがあり、この地でもまた新たな人脈をつくり上げている。
優しい味わいを「たっぷり」。満足したいから“カフェ飯”ではなく“カフェの定食”
店の看板メニューは、やはり「食堂」だけに定食。それもザ・定食な風貌ではなく、優しい装いと彩り豊かなカフェ仕様だ。
「カフェなんですけど、いかにもな和食メニューにしたくないし、でもカフェでよく出てくるこぢんまりとしたボリュームだと物足りなくて。なのでお腹いっぱいになるようたっぷりなメニューです。私自身が食べるの大好きなんですよね」
メインのおかずは日替わりで選ぶことができる。何のメニューかはその日の黒板で確認を!小鉢、サラダ、たっぷりの雑穀米が添えられ、完食する頃には心も体もしっかりと整う。
全てのメニューは田代さんが毎日丹精込めて仕込んでいる。店の調理に接客、全ての切り盛りを一人でしているので、数は限られる。その分「自分がおいしい」と思った食材を厳選し、体に優しい味わいで愛情をたっぷり注ぐ。
ティータイムにはぜひプリンを。ほんのりラム酒が香る少し硬めのプリンは、添えられた季節のフルーツとの相性も抜群だ。この日のフルーツはしっとり染み渡ったイチジクのコンポート。ラム酒とのハーモニーがたまらない、大人な味わいだ。
コーヒーは田代さんお気に入りの豆を取り寄せて提供している。柔らかな香りでクセのない味わい、食事とのバランスがとてもよい一杯だ。
目指すのは、地域に開かれた新しい形の食堂
『トモリ食堂』の入る長屋では、9つのお店が一堂にそろって活動をしている。隣の店とはガラス戸一枚で仕切られており、互いに顔を合わせるのが日常のできごとだ。この日、隣の店では展示会が開かれていて、店主同士が互いの店を行き来し、暖かな交流が生まれていた。そのできごとを嬉しそうに受け止める田代さん。
こうした長屋のスタイルを生かした地域に開かれた「食堂」。これこそ、故郷に戻ってきた田代さんにとって新しい店作りの理想のスタイルなのかもしれない。
/定休日:月・火/アクセス:西武鉄道西武新宿線本川越駅から徒歩15分
取材・文・撮影=永見薫