赤穂義士ゆかりの街に高級マンションが立ち並ぶ
泉岳寺駅の品川寄り、A2出口を上ると目の前には都市の大動脈・第一京浜。その向こうには、2020年3月に開業したJR高輪ゲートウェイ駅を望む。広大な敷地にそびえる重機とフェンスが、街の変化を予見させる。
車が行き交う大通りの反対側、緩やかな坂を100mほど上ると泉岳寺の中門だ。「忠臣蔵」で有名な、浅野内匠頭と大石内蔵助ら赤穂義士ゆかりの名刹。いかにも門前町のにぎやかさはなく、マンションに囲まれた静かな住宅地といった印象だ。
「このあたりは三田台地という丘陵で、東京湾が一望できました。江戸時代にはいくつもの武家屋敷が置かれ、明治以降は旧華頂宮邸(現在は亀塚公園)や、上皇ご夫妻がお住いの高輪皇族邸(旧高松宮邸)など宮家の屋敷も。今では都内屈指の高級住宅地となっています」と石川さん。
泉岳寺にほど近い「パークコート高輪ヒルトップレジデンス」は、今でも眺望に恵まれたマンションだ。上階に住めば、品川、お台場、舞浜といった東京湾岸のパノラマを見下ろす、大名のような毎日が待っているのかもしれない……。
高輪皇族邸に隣接する「クラッシィハウス高輪」は、旧宮邸の職員宿舎のあった土地に開発された。
「高輪皇族邸の広大な敷地には緑が生い茂り、都心とは思えないほど静かで優雅な立地です。外観意匠、共用スペース、内装、住戸プランニングを、邸宅建築の第一人者である今井敦氏が担当。共用部には人間国宝の江里佐代子氏の截金作品も展示されています」と石川さん。プロが思わず熱弁するラグジュアリーな5階建マンションだ。
9階建てのテラス棟と47階建ての巨大なタワー棟からなる「TAKANAWA the RESIDENSE」は、白を基調にした洗練されたスタイル。セレブの街としてのブランドが定着した白金エリアはすぐそこ。古い街並みに近代的な住宅が溶け込む泉岳寺エリアとのちょっとした景観のギャップに気づくのは、マンションめぐりの醍醐味だ。
そんな界隈にふさわしく、ひっそりと佇むのが『三友居』だ。京都の本店は仕出し、出張茶懐石で名を馳せる名店。高輪店では仕出しだけでなく店内の飲食も可能で、舌の肥えた高級住宅地の住人から厚い支持を集める。
本店と同じ食材を京都から取り寄せ、京料理の職人が技を振るう。夏はハモ、冬はタイと京野菜、春先のわずかな期間には琵琶湖の本モロコ――。東京にいながら京都の季節を味わえるとは、なんとも贅沢だ。
寺院と坂道のワンダーランド
さらに街へ分け入っていくと、折り重なるような街の歴史を肌で感じる。
伊皿子坂(いさらござか)は、一説には江戸時代初期に中国からやってきた明人の伊皿子(いんべいす)にちなむという由緒ある坂。その頂上付近、既存の石垣の上に建設された「ファミールグラン三田伊皿子坂」は、総戸数172戸のビッグコミュニティだ。スクエアな輪郭が強調されたシャープなフォルムながら、重厚感ある佇まいは周囲の景観と調和しているようにみえる。
狭いエリアでも大型マンションが多いのは、武家屋敷跡の広い敷地を生かしたためだろう。それでいて泉岳寺以外にも古い寺院が点在し、その間にはこぢんまりとした一軒家も多い。
地形や地盤に合わせて街がつくられたためか、大きさも傾斜もさまざまな路地、小路が複雑に入り組んでおり、歩いていると方向感覚を失ってしまうほど。映画のワンシーンような、懐かしい街角に出会う味わいは、気ままな散歩を重ねるほど深まっていくだろう。
街の一角には「高輪消防署二本榎出張所」のレトロな庁舎も。大正8年(1933)に建設された「ドイツ表現主義」のスタイルで、曲線的な独特のフォルムが存在感を放つ。
そんな街を歩いていると、他所にはない個性的なお店もみつかる。『ベラズカップケーキ』は、イギリス人の前オーナーが、「ママがつくってくれたような素朴なカップケーキが食べたいのに、日本にはどこにも売っていない!」と考えたのがはじまり。
家族のおやつに、ちょっとしたパーティに、コンパクトなケーキは使い勝手がよい。甘く香り豊かなクリームと、ふんわりと軽い生地が特徴だ。
魚らん坂の『サンライン』は、英国風特製カレー1500円の1本に40年間こだわり続けてきた。“泣けるカレー”は、ガツンと辛いというよりも、身体の中からじわじわ熱さが上ってくる印象だ。
同じ人でも、体調によって辛さ、甘み、酸味などの感じ方が変わるという。味わったことのない不思議なカレーだ。
2025年、泉岳寺の街はどう変わる?
さて冒頭で触れたように、この街は今大きな変化を目前にしている。かつて貨車操車場だった広大な敷地では、大型再開発プロジェクトが進められており、2025年には4棟の高層ビルをはじめ、さまざまな施設が誕生する。
現在のところ、再開発エリアからほど近い地域でも、都会のエアポケットのようなゆったりとした空気感が漂う。「ザ・パークハウス 高輪フォート」は高輪ゲートウェイ駅、品川駅、ともに徒歩10分という立地ながら、非常に閑静な住環境だ。こうした街の様相は、どのように変わっていくのだろうか?
都市計画によれば、高輪ゲートウェイ駅前には「360度の広場空間」がつくられるという。京料理の弁当や、英国伝統のカップケーキを持ってピクニックなどしながら、“新生”高輪&泉岳寺をじっくりみてみたい。