かじや酒店
旧街道に店を構えて4代目
駅から少し離れた旧道に酒屋が1軒。老舗らしく、瓶登場前に使われた酒徳利が陳列されていたり、地元みやげにと特注する酒が置かれていたり。「昔は府中や国分寺に通じるメインストリートだったんです。 周りは農家ばっかりだったけど」と、はにかみながら話すのは、4代目店主の大澤寿男(ひさお)さんだ。自身は特別純米 「初緑」(銀)の豊潤さに感化され、日本酒に開眼。米の甘みを感じる純米酒の話になると饒舌(じょうぜつ)に。とはいえ、品数が多いわけではない。「うちは小さい酒屋。流行り廃りではなく、いい酒を醸す小さな蔵のものが多いんです」。
試飲会などで出会った家族経営の酒蔵も少なくなく、贈られた杉玉を大事に店頭に提げている姿もほほえましい。
ここでは角打ちも楽しみ。「酒好きは酒の匂いを嗅ぎつけるんです」と、野川散歩の途中で立ち寄る人も。缶詰や乾き物などの販売もあり、新酒を織り交ぜながら常時5、6種類、飲みながら客と語り合うこともしばしば。また、毎月催す日本酒飲み放題も見逃せない。つまみが持ち込め、「手作り料理をタッパーに詰めてくる方もいますよ」。見知らぬ者同士が長閑(のどか)に酌み交わす情景が今もここにある。
『かじや酒店』店舗詳細
富士屋 天野酒店
酒好きの店主2代で営む
2代目店主の天野喜仁(よしひと)さんは「1泊あればどこにでも行けますから」と、全国の蔵元に足しげく出かけていて、酒と酒文化に精通。酒瓶を指差して尋ねると、味だけじゃなく、仕込み方、蔵のある風土、食文化、蔵人の人柄にまで、話はどんどんと広がっていく。「蔵元の人柄はもちろん、蔵で働く人たちの雰囲気も感じたいんです。いい雰囲気の蔵はいい酒を造るものなんですよ」と、しみじみ語る。じっくり酒を酌み交わした蔵元との直接取引が主流で、小さな店ながら、昔ながらの生酛(きもと)造りで醸す日本酒や、鹿児島の製法が伝わった東京都八丈島の焼酎、甕(かめ)で長期熟成させた古酒の泡盛など、ラインナップは圧巻。産地での飲み方も教えてくれる。 和酒一辺倒かと思いきや「一番好きなのはワインかな。くだものだから贅沢な幸せ感があるんですよね」と、笑う。
飲食店へ2代目が配達に出ていることも多い。そんなときは、初代・新治(しんじ)さんの出番だ。「それはね、飲んだことないんだぁ」など、素直な接客がまた好印象で、とても89歳とは思えぬ健在ぶり。「これはほんっと、旨いよ〜」と目尻を細めたら、即買い決定だ。今宵の晩酌が待ち遠しくなる。
『富士屋 天野酒店』店舗詳細
取材・文=佐藤さゆり 撮影=金子怜史
『散歩の達人』2021年1月号より