バックパッカーから雑貨屋へ
兵庫県姫路市出身の瞳さんは、はじめての海外旅行が中国。19歳の頃、香港映画が流行っていたことからアジアに興味を持ち、たまたま選んだ中国に行ってみたら、これがどハマり! 街が栄えはじめているのと昔懐かしさが混在しているのに惹かれ、人も優しく、ハートを鷲掴みされた。
それから学生時代は休みの度にバックパッカーで中国に渡り、1ケ月ほど滞在したり、電車で2、3日かけ移動したりと大いに満喫。現地の人とも仲良くなり、ベトナムやタイなど、中国周辺のアジアにもたびたび訪れた。
雑貨が好きだったので、卒業後は東京のアジアンテイストな雑貨屋さんで働きはじめる。それから別の会社に勤めたものの、やっぱり自分のお店がやりたいと、雑貨のネットショップをオープンし、2013年に荻窪で実店舗を構えた。
トルコ語で「1杯のコーヒー」
『birkahve(ビルカーべ)』という店名は、トルコの旅で気に入ったカフェの名前から。異国情緒あふれるトルコで、トルココーヒーの店が多かった中、普通のコーヒーを出すフラットなカフェで、居心地の良さから旅行中にホッとでき、ちょっと懐かしい感じがした。
言葉の響きも面白く、いつか自分が店を開いたらこの名前にしようと決めていた。birが1で、kahveがコーヒー。トルコ人がカフェだと思って来ることもあるそう。
荻窪から阿佐ケ谷へ移転
荻窪時代は不定期営業で駅から少し離れていたこともあり、好きな人がわざわざ来てくれるお店だった。しかしネットショップも軌道にのり、地方から訪ねてくれる人が増えると、だんだん駅から遠いなと思い始める。
そんな折、阿佐ケ谷にある映画館へアジア映画特集にちなんだポップアップを出店中、荷物を運んでいると、ある店先に店舗入居者募集の貼り紙を発見。それが現店舗。当時はまだ前のお店が営業中だった。
周辺はかつて商店街でにぎわっていた場所で、近くに豆腐屋さんや中華屋さん、床屋さんなどレトロなお店が残っており、そのひそんでいるかんじと、駅やポップアップで出店している映画館にも近いこと、また店舗が入っている長屋の雰囲気が店にマッチしそうということで即決。2022年2月に移転オープンする。
おばあちゃんちのような素朴さを
もともとソ連や東ドイツなど社会主義国のデザインに興味を持っていた瞳さん。店を始めた時は、どこの国とも決めずにレトロなものを集めていて、アジアよりもむしろロシアや東欧のものが多かった。
そのうち中国に古いものが少なくなってきていることから、集中して買いつけに行くようになると、同じような趣味のお客さんが増えてきて、どんどん掘り起こすようになり、阿佐ケ谷に来る頃にはほぼ9割が中国のものに。
いわゆる中華街のイメージのような定番の中国雑貨よりも、昔懐かしい花柄や、昔の人が使っていたような素朴なものが好きで、レトロな感じのおばあちゃんちのようなものが多い。今でも少しだけロシアやハンガリー、チェコのものもある。
現在はテーマを決めたイベントや、他のお店のポップアップを開催し、また外にも飛び出しポップアップ出店なども行っている。今後ものんびり続けていきたいと言う瞳さん。気まぐれ出勤の看板犬アキナちゃんと共に、今日も阿佐ケ谷の元商店街の一角で、昔懐かしい雑貨たちに愛を注いでいる。
取材・文・撮影=千絵ノムラ