じっくりおしゃべりしたくなる築50年以上の2階建て
目黒銀座商店街の少し奥に2017年6月にオープンした『Y2T STAND』。店舗は、築50年以上という古民家を改装している。1階部分は開放的な空間にカウンター席、ベンチシートとソファがあって、2階は古い住居らしい急な階段を上った先にこんな空間があるなんて!と感じてしまう佇まいだ。おしゃべりが弾みそうなカジュアルさもうれしい。
“Y2T”は、Yesterday Today Tomorrowの略。昨日も今日も明日も、毎日来られるような気軽なお店にすることを目指して名付けられた。
お店は11時からオープン。ランチは16時まで提供しているので、近隣で働く人たちが遅いランチを求めてやってくることもしばしばだ。飲み物のテイクアウトも可能だし、夜にはワインを中心としたアルコールにしっかりした食事も楽しめる。
素朴さも魅力のポルトガル料理。赤パプリカを使った調味料、マッサが決め手
ランチのおすすめは、ビファーナというサンドイッチを中心にしたプレートだ。お店で焼いた全粒粉入りの丸いパンに、豚ロースの薄切りを煮込んだものを挟んだだけのシンプルなサンドイッチだが、この豚肉が柔らかく仕上がっていておいしい。
小さな器入りの赤いソースが添えられているが、これで豚肉を煮込んでいる。現地ではパンをソースに浸してから提供されることが多いが、そうするとちょっと食べにくい。でもこのソースがおいしいのだからと、別添えにしたのは『Y2T STAND』流。ちぎったパンをソースにつけながら食べる。
ソースの赤は、ポルトガル料理には欠かせない調味料、マッサの色。マッサは塩漬けした赤パプリカを天日干しして細かく砕いたもので、お店で手作りしている。唐辛子もトマトも入っていないので辛くもないし、トマト味でもないところが、初めて食べる人には新鮮に感じるだろう。
「ポルトガル人が、ポルトガルで食べるビファーナよりおいしいって言っていました」と話すのは代表の吉澤朋裕(よしざわともひろ)さん。「ポルトガルでは、スープをよく飲むんですよ。まずはスープとワインを飲みながら、今日は何を食べようかと考える姿をよく見ます」
ビファーナのプレートもスープ付き。スープの種類は定期的に変わる。サラダもついてプレートはお得感がある。
ポルトガルのスイーツとしてよく知られるエッグタルトも用意されている。ポルトガルとは関係ないものの、フルーツサンドもショーケースに。テイクアウトにも対応している。
ワインがきっかけとなったポルトガルには、日本の食に共通項あり
代表の吉澤さんとポルトガルとの出会いは、ワインから。大学卒業後、鉄鋼を扱う商社マンとして働いていたとき、偶然ポルトガル特有のグリーンワインと出会って、ワインインポーターに転身。その後、ワインを知ってもらうことを目的に飲食業に乗り出した。
「ポルトガルにとってワインは主要産業で、多く輸出しています。甘さが特徴のマデラワインも有名ですし、グリーンワインは完熟する前のブドウを使ったフレッシュな味。日本の4分の1しかない土地で、地域ごとに特徴あるワインを作っています」
ポルトガルは、ヨーロッパでも米や魚介をたくさん食べる国としても知られる。米はリゾットの他、デザートとしても食べられ、イワシの丸焼きやアサリを出汁に使う料理もある。それどころか、「ポルトガルにいると、和食が恋しいと思うことがほとんどない」と吉澤さんが言うほど、食文化が日本に似ているのだとか。
ただし、「ポルトガル料理は家庭料理が多くて、そのままだと写真映えはしないんですよ」と苦笑い。交流の歴史が古い間柄にもかかわらず、日本国内でポルトガル料理を出す店はそれほど多くないのは、そんな理由もありそうだ。
まだなじみの薄いポルトガル料理だが、『Y2T STAND』を日本食との共通項とシンプルな魅力を知ることができるかも。
取材・撮影・文=野崎さおり