新たな居酒屋を開拓するたびに、その店のもつ煮を注文するという人も多いだろう。そこでぜひ紹介したいのが、錦糸町で“もつ”といえばこの店『もつ焼き 煮込み 楓』だ。10年の歴史を持つ本店は、錦糸町駅北口から徒歩3分、錦糸公園の一本手前の路地に店を構える。威勢の良い筆文字「楓」が書かれた、白い看板が目印だ。
こだわりの味付けで、個性豊かな“もつ”を楽しむ! レア部位の串もあり
店名からも分かる通り、ここでは多様なもつ料理を堪能できる。
まず注文したいのは、牛もつ煮込み550円だ。マルチョウやギアラなど、10種類前後のもつが楽しめる。この煮汁は、毎日継ぎ足し、醤油をベースに、3種類のみそ(種類は企業秘密)を加えた独自のブレンドで味を付ける。一般的に、もつ煮は具がこぢんまりとしている店も多いが、ここのもつ煮は全く違う。身一つひとつがかなり大きく大胆にカットされている。店長の福地さんはこう説明する。「かなり長時間煮込むため、身が小さくなってしまうんです。なので当店では、大きめに切って形を残すようにこだわっています」だからこそ、しっかりと染み込んだコク深い味わいと、一つひとつのもつの違いも堪能できるのだ。
食べ頃になるのは、煮込み続けて8時間くらいだという。じっくりと身を加熱し、味付けした後も、ぐつぐつと根気強く火を入れ続ける。かなり煮込まれているからか、もつ特有の食感や味わいは残るものの、余計な臭みは感じない。「もつ独特のにおいが苦手」という人にも食べやすい一品かもしれない。
さまざまな種類で、もつのオンパレードを楽しむには、もつ煮が打ってつけ。一方、部位ごとの味わいに集中するなら、串焼きがおすすめだ。
メニューには、希少部位の串焼きが並ぶ。豚ののどナンコツである“のどぶえ”253円は、こりこりとした食感がたまらない。一口目はそのままかぶりつき、この歯ごたえを楽しむ。そして次は、皿に添えられたネギ生姜ベースの辛みそと一緒に。もつ好きには馴染みのある部位かもしれないが、この店で、のどぶえデビューを果たす若年層の客も多いそう。
また、もつ鍋も根強い人気があるという。冬が定番だが、メニューは一年中降ろさないそう。真のもつ鍋好きは、夏でも汗を流しながら楽しんでいるのだとか。
ホッピーにもCハイにも “シャリキン”が定番! ガツンと来る酒が、もつには合う
さて次は、もつ料理のお供に欠かせない飲み物をご紹介。ビールやハイボールの他、ホッピーもよく注文される人気の酒だ。このとき注文したのは、55ホッピー550円(赤ホッピー)。黒ホッピーや白ホッピーと比べ、もっともビールに近い味わいだという。“中”は、キンミヤ焼酎が基本。それも“シャリキン”だ。焼酎に氷を入れてしまうと次第に薄まり、本来の味わいが変わってしまう。そこで生み出されたのが、焼酎そのものを凍らせたシャリシャリ食感のキンミヤ、通称“シャリキン”だ。
ちなみに、度数の高いアルコールが苦手な場合は、氷入りでも注文できるのでご安心を。
2杯目にすすめられたのは、オロナミンCハイ495円(通称“Cハイ”)だ。
カウンターにドドンと置かれたそのビジュアルには、圧倒される。このビンは、うまく外せるのだろうか、中身は溢れないのだろうか……。
心配していたが、オロナミンCの量に合わせたグラスのため、中身がピッタリと気持ちよく収まる。初めて注文した客からは「どうやって飲むの?」の声が絶えないという。ビンを抜くだけでもちょっとしたレクリエーションだ。
こちらもやはり、シャリキンをオロナミンCで割っている。エナジードリンクをシャリシャリ食感で楽しめるのは、かなり新鮮だ。「オープン当初から、焼酎はキンミヤと決めています」と話す福地さん。甲類焼酎の定番であるキンミヤは、二日酔いになりにくいとも言われている。また客にとっては、どんな焼酎を使っているかが分かるのも安心だ。
もつの魅力を、錦糸町で。カウンターで肩寄せあう距離も、心地いい
『楓』は2013年にオープンし、2023年で10周年を迎える。そもそもなぜ、もつ料理の店を始めたのだろうか。
福地さんはこう語る。「当店のオーナーは、大のもつ好きです。居酒屋の肉料理と言えば、まだまだ焼き鳥が主流であり、歴史も長いでしょう。まだまだ伸びしろのあるもつ料理をメインにして、魅力をみんなに知ってもらいたい――。そう思って見つけ出したのが、錦糸町だったといいます」居酒屋文化と、さまざまな人情の行きかう錦糸町。もつのディープな魅力を発信するには、ピッタリな場所かもしれない。
『楓』は本店の他にも、錦糸町に2店を展開する。テーブル席の豊富な『楓 HANARE』、朝まで営業する新店舗『楓 南口店』だ。それぞれに特色があるが、カウンターテーブルがメインの本店には、カップルや、フラっと来る一人客が多い。年齢層はかなり幅広く、串を一本から頼むことができ、一品一品もリーズナブルことから、若者も多いそうだ。また、開店当初からずっと本店に通い続ける常連客もいるという。系列店が新しくできても、本店の風情や、カウンター席のほどよい距離感を気に入ってくれているのだとか。店長の福地さんは、『楓』に関わりはじめて4年目。錦糸町の3店舗の『楓』を支える存在だ。「今後もっと、もつ焼きやもつ煮込みの魅力を広めていきたいですね。馴染みがない部位もあるかもしれませんが、その分奥が深い。このおいしさを皆さんに知ってもらいたいです」
席はすぐに埋まってしまう可能性があり、店自体ももつ料理がなくなり次第終了。特に金・土・日曜は、予約がおすすめだ。また予約した際は、本店の近くに『楓 HANARE』があるため、間違えないよう注意したい。もつの奥深い世界を、もっと気軽に。錦糸町へ行くならぜひチェックしたい店だ。
取材・文・撮影=aki