古いイタリアの聖堂を思わせる店内
JR秋葉原駅、電気街口前の大きな広場、その正面に立つ大きなビルが、秋葉原を象徴する建物のひとつ、秋葉原UDXビルだ。駅を背にして左側に回り込むようにして進んでいくと、喫茶店や飲食店がかたまる一角に『キオッチョラ・ピッツェリア』がある。
キオッチョラとはイタリア語でカタツムリ。同時に@を表す言葉でもあるという。秋葉原のITの集積地として計画された秋葉原UDXビルにふさわしい店名として考えられたという。
オープンカフェ用に置かれた席とガラスの向こうに『chiocciol@PIZZERIA』の店名が見える。夜にはきっとすごい演出になるだろう窓際の電装。入り口正面のBARのカウンターコーナーがガラス越しに見える。入り口から回り込むようにして奥に入っていくのだが、おそらく初めて来店した多くの人たちがその瞬間に驚かされることになる。
店内の、たぶん計算して作られた細い路地のような通路を抜けるようにして店の奥に進んでいくと、そこには店頭で受けたカジュアルな印象とはまったく異なった大きな空間が広がる。ヨーロッパを思わせるような、厳粛な雰囲気さえ漂うきらびやかな異空間ともいえる世界だ。
「この店内のデザインに至るまでにはかなり苦労があったと聞いています。依頼したデザイナーさんの提案ではなかなか決まらず、世界観を共有するために弊社スタッフとデザイナーさんがイタリアに行き、ローマ(バチカン市国)のサンピエトロ大聖堂のゴールドのタイルが施されたドーム状天井にヒントを得てようやくこのデザインにたどりついたということです」とそのこだわりのすごさを教えてくれたのは、料理長の久保田大次郎さん。
広々とした部屋は金色のドーム型の柱によっていくつもの空間に緩やかに分けられ、明るいのだけれど、好ましい落ち着いた影がある不思議に落ち着く空間が作り上げられている。
厳選された素材で作られるミラノピッツァ
ランチに注文したのは、お昼の人気メニューの1つであるピッツァセット1200円。3種類の中から選ぶことが可能だが、今回は一番人気のピッツァマルゲリータをお願いした。
ピッツァはすべて注文があってから作り始める。ピザ生地を伸ばし、そこにオリーブオイル、トマトソース、1枚ずつちぎって香りを出したバジル、チーズなどが手早くのせられていく。生地にはわざわざドイツから取り寄せた麦からとった自然酵母を使用。これを1日かけて発酵させる。
トマトソースは火を通していないなめらかなジュースのような見た目。そして専門業者といくどもやり取りを積み重ねたうえで完成したオリジナル配合のチーズ。生地、チーズ、ソース、具材のすべてが火を通されていない生(フレッシュ)だ。
これが400℃に熱せられたピザ釜の中で1~1分半、一気に焼かれサクサクの薄皮ピザとなる。
テーブルに運ばれてきたピザの第一印象は、その大きさ。とにかく大きい。直径32センチ。宅配ピザの世界でいえば、堂々のラージサイズ。思わずこんなに食べられるのかとの思いが浮かぶのだが、その気持ちを見透かしたように「みなさん、女性もペロッとお食べになりますよ」とのお言葉。
「うちでお出ししてるのは、フカフカもちもちのナポリピッツァではなく、薄くて大きなミラノピッツァです。おいしさももちろんですがピッツァだけでお腹いっぱいになってしまうのではなく、いろんな料理を楽しんでいただきたい、という思いもあります」と久保田料理長。
その言葉通り、絶妙な配合で具材が乗せられた熱々で薄いピッツァはサクサクの食感とともに次々にお腹に収まっていく。そうそう、このセットにつけられた、存在感抜群のサラダも忘れてはいけない。明らかに色が違う。葉の色に濃厚な緑という表現があるとすればまさにこんな色。
聞けばやはりただモノではない。長野の契約農家から取り寄せた有機野菜で、約10種類の野菜が入っているという。一口食べると明らかに日ごろ口にしている野菜とは異なる濃い味が広がる。お願いすると出していただけるタバスコもいい。これももちろんオリジナル。辛すぎず酸味が効いていて、いっそう食欲が増す。
コンセプトはフルシチュエーション・イタリアン
もう1品、週替わりパスタプレートもランチの人気メニュー。この日は牛スジの赤ワイン煮込みのソースが楽しめるパスタ。これにチキンスープ、有機野菜のサラダ、自家製フォカッチャ、ドルチェ、コーヒーが付いている。
この牛スジの赤ワイン煮込みがとにかくおいしい。長時間いこんだソースならではの甘みの中にお肉の滋味あふれる奥深い味。それがパスタと絡み合って、しみじみ「あー、おいしい」と一口ごとにやさしい気持ちにしてくれる。
お店のコンセプトはフルシチュエーション・イタリアン。つまりどんな設定でも楽しむことのできるイタリアンのお店。秋葉原の異空間を楽しみながら自由でおいしいイタリアンを満喫する。なんとも贅沢な時間の過ごし方だ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=夏井誠