やきとんの人気部位“しろ(大腸)”は、店によっては硬くて独特の臭みがある。そんなしろが名物という『のんき』だが、これが一度食べたら頷ける。表面は軽く焦げ目が付くほどの焼き上がりで、最初の歯触りはサクッと噛み切れるほど柔らかい。超新鮮なモツは臭みなど皆無で、濃い目のミルキーな風味が口いっぱいに広がり、誰もが思わず「おいしい!」と声が出てしまう。シロを“おかわり”してしまうもつ焼き屋は、きっとここぐらい。
夕方を過ぎれば、満席。行く道は早足、店内ではのんきに酔うべし
赤羽駅東口を出て、4分ほど。赤羽一番街商店街を入って左手、OK横丁通り過ぎたあたりに『もつ焼のんき 赤羽店』はある。オープンは赤羽らしく15時と少し早め。開店時間とともにお客が集まりはじめ、平日でも15時に満員となることも珍しくないという。行く道のあちらこちらに酒場があるが、後ろ髪をひかれながら早足で向かおう。
店内には「まずは しろたれ ハイボール」と書かれた短冊が貼られ、お客の多くが下町ハイボールを手にしている。それもそのはず、こちらは堀切菖蒲園にある名店の『もつ焼き のんき』の暖簾分け店。店主の渡辺さんは、修行の末にあの絶品“しろたれ”の技術を体得したお方なのだ。
昔ながらの下町ハイボールとトロトロのもつ煮で乾杯
とにかくにぎわう雰囲気に酔いたくて、本店から受け継いだ名物ドリンク、下町ハイボールをグイッといただく。焼酎、秘伝のエキスに炭酸水。アルコールが薄まらないように氷は入れず、レモンが浮かぶ、昔ながらのスタイルだ。炭酸がスッと喉を駆け抜けて、疲れも一緒に揮発していく。
焼きものがやってくるまでの酒の友は、店でも人気の2品。
低温調理で仕上げたモツの刺し身は、はつ、れば、しろ、がつ、こぶくろの6種類あり、今回はれば刺しをチョイス。あぁ、これも手がかかっている、と口にした瞬間に確信する味わいで、濃厚な旨味が溶けていく。
もつ煮は味噌ベースで、名物の“しろたれ”同様、ていねいに処理を施したモツが惜しげも無く使われている。肉厚なモツはよく煮込まれ、トロントロン過ぎて、口の中が無重力に思えるほどやわらかい。また、やさしい味わいのつゆには、じゃがいもが一緒に浸っている。箸で崩していただき、少しつゆをすすれば、奥深い滋味が広がっていく。
しろたれを食べるなら、心がとろける準備を
お待ちかねのもつ焼きがやってくる。そう考えるだけで酒が進む。
モツの処理にはとにかく時間をかけていて、焼き方にも並々ならぬこだわりがあると聞けば、なおさら。
名物のしろたれは、噂通りの味わい。サクッと心地いい歯ごたえながら、驚くほどやわらか。とろけるような旨味が広がり、食べ終わってしまうのが惜しくて、一串を何口に分けて食べるか迷ってしまったくらいの旨さ。おかわりしたくなるとの評判も納得だ。
プリンとしていて、レアなレバーも至高。お酒を瞬く間に消してしまう魔力があった。
『もつ焼のんき 赤羽店』は、暖簾分けで独立して14年ほど。名物のしろたれとハイボールのクオリティはそのままに、赤羽の飲べえの希望に応え、本店にはないメニューを増やし、アレンジを加えてきたのだそう。モツ煮やモツの刺身もその一つで、渡辺さんの腕前と店独自の進化がお客の心を掴んでいるのだ。
「おかげさまで、土日にはウチのお店を目がけて、遠征して来てくれるお客様もいます」と店主の渡辺さん。きっとこれからも、とりこになるお客が増え続けることだろう。
『もつ焼のんき 赤羽店』店舗詳細
取材・文・撮影=福井 晶