創業は2002年『甘味処 楓』
JR西千葉駅の南口を出て、稲毛方面へ4~5分歩いたところに『甘味処 楓』がある。
店主の石渡竜太さんは和菓子好きが高じ、まったく別の業界から和菓子職人を志して30歳で一念発起。製菓専門学校へ入学し、そこで知り合った妻のちよさんと2人で2002年に店を構えた。
四季を彩る楓のような和菓子作りをしたいと店名を「楓」としたそうだ。
持ち帰りのほか、店内で抹茶と共に楽しむこともできる季節の上生菓子は6種類。店内の甘味メニューも充実していて、ぜんざいやおしるこにあんみつ、本わらび餅やみたらし餅、くずきりにところてんなど決めるのが難しいほどだ。一年を通して人気の高いかき氷を求めて、夏場は行列ができる。
真骨頂は上生菓子にあり。
『甘味処 楓』といえば餡がおいしい。とろけるように滑らかな小豆のこし餡は豆の風味も感じられ、粒餡はふっくらとして柔らかく、白餡は丁寧に水にさらしていることがうかがえる品のよい仕上がり。
「和菓子店で自家製餡を使わないのは、和食店で自家製の出汁を使わないようなもの。自分の店の味ではなくなってしまう」ということで、餡作りを製餡所に依頼することはせずに、すべてご主人が手作業で作る。たくさんは作れないので餡が切れたらその日は閉店。餡の仕込みに入る。
極上の餡を使う麗しい上生菓子が売り切れていなければ迷わず買うべし。
上生菓子は、意匠こそ異なっていても全て同じ餡の味ということが少なくないけれど、『甘味処 楓』のものは、餡の味が様々でうれしい。たとえば11月の上生菓子にはこし餡のほかに柚餡やほうじ茶餡、黒ごま餡、抹茶餡が使われる。菓銘や意匠から中の餡の味を予想しながら食べるのも楽しい。
一度食べたら忘れられない。注文ごとにねる本わらび餅。
本わらび餅を注文すると、稀少で高価な鹿児島県産の本わらび粉をねり上げて、自家製のこし餡で包み、黒須きな粉をまぶした作りたてを出してくれる。
本わらび粉特有の優しい香り。形を保っているのが不思議なほど柔らかく、それでいて弾力もあり、喉ごし涼やか。今回これを食べるのが一番の目的だったので大満足だ。
混雑時を避ければ持ち帰り分をお願いすることもできるけれど、できたての感動を味わうには店内で食べるのが一番。
房州餅と西千葉のこれから。
年末年始になると食べたくなる房州餅(ぼうしゅうもち)。千葉県山武郡を中心に食べられている、はばのり雑煮風の一皿だ。はばのりは少し癖があるので、同店では誰でも食べやすいように焼き海苔と青海苔と使う。餅に焼き海苔、四万十川の糸すじ青海苔、かつお節をたっぷりかけていて風味豊か。ほかではなかなか食べられない味だ。
石渡さんによれば、気候変動の影響か材料全般を手に入れるのが年々難しくなっているそうで、本わらび餅や房州餅もいつまで食べられるか分からない。心して食べてきた。
西千葉には2021年にZOZO本社屋が完成した。南口は閑静な住宅街で北口は学生街というイメージが変わり始めている。新しい人の流れができた西千葉のこれからも楽しみだ。
文・撮影=原亜樹子(菓子文化研究家)