「かけあしすすめ!」。聖火トーチを掲げた正走者の声を合図に、一糸乱れぬ聖火ランナー団が1964年の日本を駆け抜けた。
練馬区でその一員だった井上堯(たかし)さんは「練習は月2回。大学祭の準備で忙しかった私は出席が難しくて」と振り返る。でも走行中沿道の「頑張って」という声援がうれしかった。
前回の走者は1区間1~2㎞を風雨の中でも走れる、元気な若手男女が選ばれた。県・市町村境で聖火を引き継ぎ、日本全国6755㎞を彼らはビシッと走り抜いたのだった。
ところが2021年3月の聖火リレーでは、第一走者のなでしこジャパンをはじめ、みんなニコニコ。1人約200mで100歳越えのランナーもいる。その上、隊列には大音響でにぎわいを演出するスポンサー車列。
今昔の違いはまだあった。今回は空輸だが、前回の聖火はギリシャからユーラシア大陸を経て13カ所、空輸以外に732㎞も走り継いで来日した。聖火リレー自体は、昭和11年(1936)のベルリン大会が初でナチスドイツのプロパガンダ説もある。アジア初の東京大会もそれに倣い、2008年北京大会まで続いた。
現代版はどうだろう? 東京都オリンピック・パラリンピック準備局聖火リレー担当の越坂部さんによると、「今回のコースは各自治体に、多くの方に見ていただき、安全で確実に実施できるルートを選んでいただきました」隣町へは車で聖火を運ぶ。しかしこのコロナ禍では緊急事態宣言など外出自粛要請が出た場合、公道の走行を見合わせることもある。
観客の「密」は防止したいが、運営スタッフは大人数
では自治体の役割は?
練馬区の担当者に聞くと「石神井公園駅横をスタート、ゴール地点の練馬総合運動場公園でその日の聖火の到着を祝うセレブレーションの予定です」と林さん。当日は聖火ランナーのほかに6.2㎞の沿道警備にボランティア約800名と区職員。さらに都の職員や警視庁、セレブレーション会場などにスタッフを配置。そこに全国を巡る組織委員会やスポンサー関連スタッフ460名余も加わる。
大変そうだが「コロナ禍でも安全安心なリレーを実施してオリンピックの機運を高め、皆さんに喜んでもらえれば」と関係者は語る。
7月23日聖火は国立競技場到着。ところで建築当初設計になかった聖火台のことは、今も誰に聞いても「わからない」。これもお楽しみ……か!?
取材・文=眞鍋じゅんこ 撮影=鴇田康則
『散歩の達人』2021年6月号より