はじめて一緒に鍵屋に来た3年前も、ちょうど秋の気配を感じはじめた晩夏だった。
「ありがとうぞんじますー」
鍵屋にしては遅めの客だったボク達と入れ替わるようにして、ちょうど幾人かの先客が帰ったようだ。
「ありがとうぞんじますー」というのは鍵屋の女将さんの美しい言い回しである。
「神田藪蕎麦」など古き江戸の習慣を残す老舗では現在も割と自然に使われている。
いわゆる「江戸ことば」の一つだ。
カウンターはほぼ一杯であったが、不思議な事に必ず燗銅壺の前に通される。
3年前と同じようにお通しはふっくら炊かれた「煮豆」。
3年前と同じように最初は「赤星」で乾杯した。
くりから焼、とりもつ鍋、奴豆腐・・・櫻正宗の燗酒
鍵屋の豆腐は美味い。
おそらく、上野桜木にある「藤屋豆腐店」の豆腐だと思われる。
ボクはこの豆腐で育ったから分かるのだ。
上野桜木界隈は未だに綺麗な地下水が出る。
その地下水でつくられた豆腐だから美味しいと聞いた。
くりから焼きの匂いに釣られて、近所のネコも鍵屋を覗く。
初秋の鍵屋もいいが、真冬の鍵屋もいい。
春は桜正宗、秋は菊正宗、大相撲がはじまると大関がよく出るらしい。
来年の一月場所は大好きな鍵屋で大関が呑めるかなぁ、、、