日替わりホット2種が朝・昼・午後で入れ替え
神田駅西口から西口商店街を直進。外堀通りを渡り、そのまま歩くとレンガ調のビル1階に『豆香房 神田西口店』がある。
玄関を入ると右側の棚にはテイクアウト用のドリップパックがズラリ。正面カウンターの右側にもガラス瓶に詰めたコーヒー豆が「南米」「中米」「アジア」「アフリカ」「ブレンド」に分けて置いてある。
コーヒーの品揃えはブレンドを含めると40種ほど。この中から日替わりホットとして、朝・昼・午後の1日3回に2種類ずつ、合計6種類のコーヒーを提供する。しかも、毎週水曜日はプレミアコーヒーが数量限定で登場。過去には100g4860円のジャコウネココーヒーが1杯230円(Sサイズ)で味わえたというから、コーヒー好きにはたまらない店だ。
「いろいろなコーヒーをまずは味わって欲しい。“絶対にお気に入りのコーヒーが見つかる店”が目標です」と本社マーネージャーの田村美奈子さんは自信をうかがわせる。
生産国の人々に会うことで豆への想いは分かる
『豆香房』は神田西口店のほか、神保町店、神田錦町店、水道橋店と合計4店舗。使用するコーヒー豆はすべて本社で焙煎していると聞き、その様子を見学させてもらった。
『豆香房』ではガスの火(直接豆に火は当たらない)と熱風で生豆を焙煎する半熱風式焙煎機を使用する。「直火式よりも焼きむらがなく、まろやかな味に仕上がるから」と説明してくれたのは代表の田村保之さん。なんと豆香房では代表がほぼ全店の豆を焙煎している。
もともと田村さんは印刷会社に勤めており、コーヒー関連の企業を担当していた。その時、緑色の生豆が次第に褐色に変化する焙煎作業に心を引かれ、手網焙煎器から遂には業務用焙煎機を購入するまで夢中になった。その後、独立して特殊印刷の会社をスタートし、並行して1996年には目白に『豆香房』1号店を開店。数年後に神田神保町へ移転したのだ。
田村さんのコーヒー愛は留まることなく、ブラジル、ハワイ島、インドネシア、バリ島、エチオピア、ルワンダ、グァテマラ、コスタリカ、ホンジュラスなど、コーヒー生産国へ足を運び、買い付けまで始めた。
「競馬と一緒ですよ(笑)。パドックで馬を見て買うか、競馬新聞だけで買うかでは違うでしょ。コーヒーの木を育てる環境や生育状態、農園主の姿勢などを見て、納得できる農園とは長くお付き合いさせてもらいます」と田村さん。「2020年は渡航できず、残念です」。
いつの日か叶えたい日本産の自家焙煎コーヒー
代表の田村さんに劣らず、スタッフのコーヒー愛も熱い。仕入れるコーヒーは、高品質で欠点豆の少ないスペシャルティコーヒーだが、商社などから新規で仕入れる豆には最後の関所がある。代表と各店舗の全スタッフが実際に味わい審査する「カッピング」だ。これに合格しないと、採用にならない。
「年間に100種くらいのコーヒーをカッピングします。新人のアルバイトも参加するので、舌が鍛えられますよね」と田村さん。そうした経験を積むからこそ、各店舗のスタッフも自信を持って、自社のコーヒーを薦められるのだろう。
別れ際、本部の窓辺にコーヒーの苗を見つけた。コーヒーは木になる赤い実の種で、発芽から実を結ぶまで3年はかかる。
「気候的には小笠原でも栽培できそうですが、台風の通り道だからすぐに折れてしまいそうで……」
少年のように目を輝かせて田村さんが笑う。いつの日か、“東京産の自家焙煎コーヒー”が店頭に並んでいるかも知れない。
取材・文・撮影=内田 晃