酒を飲まない客はお断りのそば酒場
店主の田中和外(かずと)さんは、調理師学校で学び、日本料理店とそば屋で修業後、26歳で独立。出身地である神奈川県大和市で14年営業した後、2019年に奥様の出身地である蒲田に移転した。
店名に「酒呑(しゅてん)」の文字が入っているとおり、この店ではまず酒を注文するのがルール。店の断り書きにも、「お酒と〆のそばの店です。申し訳ありませんが20歳未満の方、お酒を飲まない方、そばだけ食べたい方はご利用できません」とある。
「小さな店なので、そばだけのお客様と、酒を飲まれるお客様が同じ空間を共有するのが難しいのです。二人でやっているのですぐに料理が出せないこともあります。元々お酒を楽しむ店にしたかったこともあって、このスタイルにしました」と田中さんは話す。
酒を注文しないとダメというから、さぞかし敷居の高い店かと思っていたが、小さな店を夫婦で営むために考え抜いたのがこのスタイルだったのだ。
まずは神奈川の蔵元で揃えた日本酒を一杯
扉を開けると、店内の大半のスペースを占めるほど大きな白木のテーブルが置かれ、席はテーブルをコの字に囲むように配置されている。このほか4人掛けのテーブルは一つ。店内に石臼とそば打ち台があり、これもインテリアの一部になっている。
まずは酒を注文しよう。日本酒は、松田町「松美酉(まつみどり)」、海老名市「泉橋」、相模原市「相模灘」など神奈川県の地酒のみ。
冷酒はグラス100cc715円~と200cc1155円~、利き酒3種1320円から選べ、燗酒は徳利1155円、徳利大2255円から選べる。もちろん、ビールや焼酎、ワインもあり、メニューに添えられた説明を読めば、店主がこれらの酒を選んだ理由がよくわかる。
毎日手打ちする十割そばと店主苦心の創作料理
酒が決まったら次は肴だ。メニューは季節替わりとなるが、なすの揚げひたし385円、板わさ429円など、〆のそばが待っているからボリュームの軽いものが中心。看板メニューになっている鴨のつくね焼きは、炒めたタマネギと鴨の脂に香辛料を加えた肉汁あふれる一品。そばチップにつけながら味わう山うに豆腐440円も日本酒との相性がピッタリだ。
そばは北海道蘭越町と群馬県赤城の契約農家からソバの実を送ってもらい、その日に使う分だけを精粉し手打ちする。つなぎを使わない十割そばなので、本来の味と風味が強く、喉ごしのよさが際立つ。
酒と肴を楽しんだ後なので、もりそばで軽く仕上げるのもよいが、鴨汁そば1925円やしらす花巻そば1265円など、店主がひと手間加えたそばも味わってみたい。
『酒呑蕎食 〆 TAGURU』店舗詳細
取材・文・撮影=塙 広明