加部亜門 Kabe Amon
2003年生まれ、東京都出身。子役から俳優として活躍し、ドラマ『グッドライフ〜ありがとう、パパ。さよなら〜』(2011年)では反町隆史の息子役を演じ、映画『きみはいい子』(2015年/監督:呉美保)、『ちはやふる-上の句-/-下の句-』(2016年/監督:小泉徳宏)などの話題作に出演。『おおかみこどもの雨と雪』(2012年/監督:細田守)では声優としても活躍する。2023~2024年には『仮面ライダーガッチャード』(テレビ朝日系)に加治木涼役で出演した。
山本奈衣瑠 Yamamoto Nairu
1993年生まれ、東京都出身。モデルとしてキャリアをスタートし、雑誌やCM、ショーと活躍。2019年から俳優活動を始め、その傍ら、自ら編集長を務めるフリーマガジン『EA magazine』を創刊するなどクリエイターとしても精力的に活動している。映画『猫は逃げた』(2022年/監督:今泉力哉)では主演に抜擢。以降、『走れない人の走り方』(2023年/監督:蘇鈺淳)、『ココでのはなし』(2024年/監督:こささりょうま)など、主演映画が立て続けに公開されている。
「いい意味でどこか距離が近い」大阪の人々に囲まれた撮影現場
——映画『夜のまにまに』の舞台となった大阪は、本作の監督・磯部鉄平さんの出身地でもありますね。大阪での撮影はどんな雰囲気でしたか。
山本 私が現場入りしたときには、すでに「みんなで同じものを作る」という空気がしっかりできていて驚きました。それって、簡単にできることではないと思うので、すごいですよね。磯部監督もそういう空気を作る人だし、スタッフさんもみんな面白くて、楽しかったです。
加部 ほとんど大阪の人だったしね。
——現地を巡ったりはしましたか?
加部 今回、撮影がほとんど真夜中だったので、実はあまり外出していないんですよ。だから、現地の雰囲気って、スタッフさんの雰囲気からしか感じることがなかったんですけど。やっぱり思ったのは、大阪の人は、いい意味でどこか距離が近いってことですね。
山本 M-1の日は、撮影を休みにしたりとか(笑)。
加部 そうそう「いや、そこはM-1観るでしょ」ってね。
山本 ああいう大阪の人たちの雰囲気は、映画にもよく表れています。佳純と新平が東京出身という設定だからこそ、大阪の人情味はより強調されていたのかもしれませんね。
——お二人は本作が初共演ですが、お互いの印象はどのようなものでしたか。
山本 亜門くんは私より前に撮影に入っていたんですが、すごく現場になじんでいて、すごいなと思いました。
加部 僕は、奈衣瑠さんにすごく警戒されていると思いました(笑)。
山本 その言い方したら変な感じになるじゃん!ちょっと緊張してただけだから(笑)。
映画館のシーンは『第七藝術劇場』で撮影。二人にとってのミニシアターの楽しみ方は?
——新平と佳純が出会った映画館のシーンは、大阪のミニシアター『第七藝術劇場』で撮影されています。お二人は、普段ミニシアターに行くことはありますか?
山本 都内だったら、よく知られているようなミニシアターはだいたい行っていますね。その日に映画を観なくても、映画館を見かけると「何がかけられているんだろう」って気になっちゃいます。
加部 最近、忙しくてなかなか行けていないんですけど、大学生の頃はよく『目黒シネマ』とか『池袋シネマ・ロサ』とかに行っていました。
——これ、人によって分かれると思うのですが、観る作品を決めてから行かれますか? それとも、映画館へ着いてから何を観るか決めますか?
加部 僕は後者ですね。「今日は何がやってるかな」とのぞいて。興味がある作品があったらそのまま観たりしていました。
山本 それ、憧れなんだよね……。忙しいのもあるけれど、私はすごく調べてから行くタイプだから。やりたいけど、どうしてもできない。
加部 僕は映画館が身近にあったからかも。
山本 私は生活圏内に映画館がなかったから、「目指していく場所」っていうイメージなんだよね。それこそ散歩の途中にフラリと立ち寄って、目に付いた映画を観るっていうのは、理想的な映画館の楽しみ方だと思います。
——では、お二人にとって映画館はどのような空間ですか?
加部 やっぱり空間そのものがいいですよね。たとえ、すでに配信で観た作品であっても、映画館だと全く違うものになる。家では聞こえなかったような知らない音が聞こえたり、真っ暗だから没入感に浸れたり。
山本 私が演じた佳純さんは、よく映画に行っていて、自分の好きな席もあって、好みの観方もあって、そういう感覚は私もすごくあるんです。たくさんの席が設けられていて、同じ作品を大勢で観ている。けれど、自分一人だけの世界はしっかり守られている個人的な空間。そこに居心地の良さを感じます。
たくさん歩いて、走って。映像の大半を占める真夜中の撮影シーンの裏側
——タイトルの通り、夜の街を歩くシーンがたくさん出てきていたのが印象的でした。お二人の印象に残ったシーンはどこですか?
山本 私は終盤、亜門くんと並んで走るシーン。あれ、実はめちゃめちゃ長い距離走ってて。
加部 駅前だったから、始発が来る前に撮り切らなきゃならなかったんだよね。しかも、何度もリテイクするっていう。
山本 亜門くん、本当に走るの速くて! 映画ではわかりにくいと思うんですけど、私、全然追いつけなかったんですよ。でも、彼は余裕だったんです。
加部 僕は基本的に夜型だから、真夜中の方が調子がいいんですよ。走るシーンは、日中じゃなくて、夜の方が絶対にいい。
山本 私も夜型だから真夜中ということは苦ではなくて、むしろコンディションは良かった。それでも追いつくのに必死で。その後、明け方のシーンに移るんですけど、本当に全力で走って、心底ぐったりした状態で撮影してるんです。佳純さんの「水買ってきて」ってセリフがあるんですけど、あれは私の本音ですね(笑)。映画の撮影であんなに走ったことがなかったので、すごく印象に残っています。
——加部さんはいかがですか?
加部 僕は、原付に乗って大阪の大きな幹線道路を走っていくラストシーンです。あれ、実は2回走っていて。
1回目にテストで走った時は道が空いていたから余裕だったんですけど、2回目は交通量がものすごく増えていて。一応、撮影車が僕の後ろについて車線をふさいで入るんですけど、それを追い越して大型バスとかトラックが来るから、すごく怖かった。あと、シンプルに寒かったですね。
山本 帰ってきた時、「寒い~」って震えてたよね。
加部 あれ、確かクリスマスの日に撮ったんだよね。「俺、クリスマスの日に何やってんだろ」なんて思いながら、走ってました(笑)。
山本 でも、結果的にすごくいい画になったと思う。映画で観ると、たくさんの車に追い越されながら走る、原付のあのスピードっていうのは、すごくいい。
加部 そう、すごくいいんだよね。普通、原付であんな交通量多いところ走りませんから。「やるしかない!」って自分を奮い立たせて臨んだシーンです。
嫌でも時間は過ぎていく。夜の延長線上で出会えるものが、きっとある
——撮影秘話を伺って、新平や佳純が悩みながらもどこか生き生きと描かれていた理由がわかったきがしました。最後に、ぜひ「さんたつ」の読者へ向けてメッセージをお願いします。
山本 タイトルの通り、夜がたくさん出てくる作品です。そして、その延長線上にある出会いが映し出されています。人との出会いとか、映画との出会いとか。そうしたいろいろな出会いが、どこに結びつくのかまで描かれている。
誰かといる時間でも、個人的な時間でも、その道を歩いた先で出会えるものが、きっとある。観てくれた方には、その予感を感じてもらえたらうれしいですね。
加部 やっぱり、嫌でも時間は過ぎていくんです。歩いていても、走っていても、自転車に乗っていても、原付に乗っていても。時間は過ぎて、いつか朝になっていく。
大小みんな悩みはあるだろうけれど、生きていれば前に進むしかない。それがどうなろうとも、どうにもならなかったとしても、全て身を任せて、自分を認めて生きていくことが大事なのだと。そういうことを教えてくれる映画なのではないかなと。
映画を観ている時は閉ざされた空間にいるけれど、終演後に扉を開けて外へ出た瞬間、その景色が少しでも良いものになってくれたらいいな、と思っています。
映画『夜のまにまに』
真面目だが、少し押しの弱い性格のフリーター・新平(加部亜門)は、訪れた映画館で佳純(山本奈衣瑠)と出会う。意気投合した二人は、明け方まで過ごして解散するが、別れも束の間、数日後に佳純が新平のバイト先で働き始める。
再会に驚く新平だったが、佳純から「彼氏の浮気調査を手伝って」と頼まれ、さらに仰天。半ば強引に夜な夜な探偵ごっこに付き合わされるも、徐々に新平は佳純に惹(ひ)かれていく。一方の佳純も、新平の周りの人々との交流によって、徐々に彼の事情を知ることになっていく——。
監督は前作『凪の憂鬱』が第37回高崎映画祭で新進監督グランプリを受賞した磯部鉄平。人情の街・大阪で繰り広げられる、少し不思議で、おかしみのある恋模様を描き出す。
【公開日】2024年11月22日(金)新宿シネマカリテ ほか 全国順次公開
監督:磯部鉄平 脚本:永井和男
出演:加部亜門、山本奈衣瑠 ほか
2023年/カラー/ステレオ/DCP/116分
取材・構成・撮影=どてらい堂 ヘアメイク=夏海 スタイリスト(山本さん)=青木 穣
衣装協力=タートルネックセーター/ブラームス