平成に開店したのに昭和の空気感漂う居酒屋
地下鉄日比谷駅にほど近いJR線の高架下にある居酒屋『まつ惣』。レトロ感漂うというか、レトロそのものの外観がずっと気になっていた店だ。この日の夕方、日比谷での用事を片付けた後に通りかかると、店頭でスタッフが呼び込みをしている。昔ながらの店にありがちの一見さんにはちょっと入りにくい店かと思いきや、明るい呼び込みの手拍子に、ついつい足が向いてしまう。
店頭には、ビールのロゴが描かれた提灯が並ぶ。店内にはテーブル席が3つとカウンター席。入り口に近いテーブル席に着いて店内を見渡すと、まさに昔ながらの居酒屋の雰囲気で、ゆっくりと酒を楽しめそうだ。
店は懐かしい雰囲気があふれているが、開店は1999年だそう。もともとは不動産関係の仕事をしていた店主の太田敬久さん。違った仕事がしたいと、居酒屋を始めることにした。飲食店などで働いた経験はなかったが、おいしいものが好き。料理をするのも好きで、腕には自信があった。
「お客さんがおいしいって言ってくれて店が25年以上も続いてるってことは、料理の腕が証明できてるってことだよ」とニコリ。
食品添加物は使わない!手作りにこだわるメニュー
まずは国産枝豆(山形だだちゃ豆)650円と野菜の浅漬け550円を注文。それから『まつ惣』自慢の焼き物・鳥モモ正肉(ネギ間)2本450円。どれも太田さんおすすめの人気メニューだ。そしてドリンクメニューにサッポロ赤星を発見。もちろんこれ、頼みます。
ほどなく、だだちゃ豆と野菜の浅漬けがテーブルに届く。この店の支払いは、注文した料理や飲み物がテーブルに出されるたびに現金で支払う形式。おしゃれな言い方では「キャッシュ・オン・デリバリー」、高架下の居酒屋での言い方では「料理と酒は現金と引き換え」だ。
お金をテーブルの上にあるザルに置いておくと、注文した料理や酒と引き換えにスタッフが代金を持っていく。お釣りはスタッフが首から下げたバッグから小銭を出してザルに戻してくれる。「やっぱり現金が一番確実だからね」と太田さん。
その日の軍資金をザルに置いておけば、あとどれだけ飲めるか一目瞭然。多少酔っ払っても、飲みすぎてお金が足りなくなるということもない。ある意味、究極の“明朗会計”ともいえるだろう。
まず、だだちゃ豆をいただく。かめばかむほど口の中に広がる旨味。ビールとの相性はひと言「最高だ!」。
次に自家製にこだわった野菜の浅漬けがテーブルに出される。ひと口いただくと、ほどよい塩味といっしょに素材そのもののおいしさがしっかりと味わえる。さらにビールが進みそうだ。
おいしい料理があるからお酒もおいしく飲める!
しばし待つと、期待のネギ間の登場だ。ほどよい焼き加減で、外側はパリッ、中身はジューシー。
「値段を抑えたいから地鶏やブランド鶏は使ってないけど、品質のいい肉をしっかりと見極めて使っているんだよ。もちろん冷凍肉も使ってないよ」と太田さん。鶏肉の旨味をストレートに楽しめる一品。2本450円でこのクオリティなら大満足だ。
「おいしい料理を食べてもらうことで酒がおいしくなる」というのが太田さんのモットー。「だからうちは1人1品、必ず料理も頼んでもらうことにしているんだ」。調理のこだわりは、できるだけ食品添加物を使わないこと。料理に使う出汁は鰹節と昆布で丁寧にとっている。
有楽町界隈ではお店の入れ替わりが激しく、チェーン店が増えて個人経営の居酒屋は少なくなってしまった。「うちが開店した頃から続いているお店は、お隣さんの『金陵本店』くらいだよ」と太田さんはちょっと寂しそう。
都会の真ん中で、昔ながらの雰囲気を楽しみながらゆっくり飲める『まつ惣』。おいしい料理においしい酒、そしてなんといっても明朗会計で安心なのがいい。これはリピ確定です。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=羽牟克郎