心を掴まれるビッグな「紅」の文字
のれんや看板、窓にも大きくしっかり書かれた「紅」の文字のインパクト。前を通ると、手招きされるかのような引力を感じる。店内に足を踏み入れると、カウンター席が14席、テーブル席も12席もあって広い。
ランチタイムから夜まで休憩がない通し営業のおかげもあってか、客層はさまざま。大学や専門学校が多い国分寺という土地柄、学生たちがグループで訪れるのはもちろん、会社員らしきスーツ姿の客などで働く人たちにも好まれている。女性客も3割程度と少なくなく、誰でも入りやすい店のようだ。
『麺創研 紅』は府中に本店があり、国分寺店は2015年にオープン。名物は、熟成味噌を主体として数種類のスパイスを独自にブレンドした味噌ダレに、自家製ラー油を加えた辛いラーメンだ。
辛さが異なる3つのラーメンを提供しており、刺激的な辛さを謳う辛さレベル5の鬼紅、辛さレベルが3の紅らーめん、辛い要素はコショウのみという辛さレベル1の味噌ラーメンで、それぞれ同じ辛さレベルのつけ麺も用意されている。「控えめな激辛」や「辛さの中に濃厚で十分な旨味」など、それぞれのラーメンを形容するキャッチコピーに、好奇心がくすぐられる。
豚肉を味噌入りスープで調理。看板商品の紅らーめん
いちばん人気の看板商品は、辛さのレベルが3の紅らーめんだ。訪れる人の7割ほどがオーダーしている。
『麺創研 紅』のラーメンは、いくつもの大きな特徴があるのだが、まずは麺。ひとつのラーメンに、2mmから1cmまで7種類の太さの麺が使われている。つまり、ひと玉に太さの違う麺が混ざっているということだ。
他に例を知らないこの特殊な麺は、自社の製麺所で作っている。加水率の多い生地を、特注の切り刃で切り出し、更に縮れやひねりを加えて、スープとの絡みをよくするよう考えられた。
そして、どの太さの麺もすべて一度に茹でられる。茹で時間は7分弱で、太さごとにゆで加減が異なる点もポイントだ。太い麺はもっちり、細い麺は柔らか。ひと口食べるごとに違う組み合わせになる楽しさがある。なお、麺の量は1杯あたり210グラムと、かなりのボリュームだ。
スープは各店舗でとっており、ゲンコツなど豚骨をメインに、鶏ガラやモミジなどを加えている。かつては10時間以上かけてとっていたが、圧力寸胴を使うようになってその時間は短縮された。それでも着火から出来上がりまで4時間ほどかけているというこだわりぶり。白濁した濃厚なスープには、熟成した味噌を主体に複数のスパイスをブレンドした味噌ダレを合わせている。
トッピングの肉は、チャーシューではなく、豚バラ肉のスライス。豚肉は注文が入るごとに味噌ダレを溶かしたスープで火を通しており、豚肉に味噌ダレの味が染みこみ、おいしく、柔らかく仕上がる。スープにもバラ肉の旨味が加わるというメリットもある。
麺の上に盛り付けられる山盛りの野菜は、注文が入ってからゆでたもやしとキャベツだ。豚肉をのせた後、最後に香りのいい自家製ラー油をレードルに1杯分ひとまわし。アクセントに糸唐辛子をトッピングして出来上がりだ。
「そのままで食べてほしいから」。卓上調味料なしという自信
ラーメン以外のメニューは、トッピングに追加できる温たま、ライスとどんぶりなどがある程度。ラーメン店に付きものと言っていい卓上調味料もなし。完成品としてのラーメンに自信があることが伺える。
目の前に出された紅らーめんは、ぱっと見て赤いラー油が多い。辛さレベル3でも辛いのでは? と警戒してしまうが、食べてみれば、「辛さの中に十分な旨さを感じられる」というキャッチコピーの通り。辛さ以上に味に深みがある。味噌ダレには練りごまも入っているので、香ばしさや味の奥行きも感じられる。
ニンニクの風味もしっかり効いていて、麺と肉、野菜はどれもボリュームがあって、味も内容も、ガツンとした満足感が持続するのもありがたい。ランチに食べればハードな午後も乗り切れそうだ。
男性客がボリュームとパンチのある味に魅せられるのは納得。女性たちもぺろっと平らげていく。この辛さと奥行きのある旨さ、そしてもっちり麺の掛け合わせは、辛いラーメンが好きな人は通いたくなるはずだ。
店には現在総勢20名ほどのスタッフがいるが、特に学生のアルバイトスタッフは、毎回賄いとしてラーメンを食べるのも楽しみにしている人も多いという。頻繁に食べても飽きない味なのだ。
麺も野菜もボリュームがあって、スープも含めてインパクトのある『麺創研 紅』の紅らーめん。ラーメンの激戦区国分寺で、突出した個性で勝負している。
取材・撮影・文=野崎さおり