空港の跡地にできた、東京ドーム約54個分の公園
もともと、ここは軍民共用の空港「臺中水湳機場(タイチョンシュイナンジーチャン)」があったエリア。2004年、それが近郊の清泉崗空港と統合(現・台中国際空港)という形で移動、広大な跡地で大規模再開発が進められている。「台中中央公園」はその目玉のひとつ。南北に延びる細長い公園で、面積約254ha。ベタな比較だと東京ドーム約54個分。南北の両端までまっすぐ歩いてざっくり30分、東京駅~新橋駅間を歩いたぐらいになる。
まずは南端にある観光案内所の「中央公園遊客中心」に向かうべし。かつて空港であったことから室内は空港を模した造りになっている。周囲に飛行機なんて見当たらないし、歴史を知らないと不思議な場所。いずれにせよパンフレットや公園の概要を確認できる。
公園内の植物の種類は106種、1万本以上の樹木が茂っている。高すぎず平坦すぎずの起伏に富んだ緑豊かな魅力的な景観は、ここが平坦な空港だったとは思えない。公園を横切る車道も、断ち切らないよう丘の下で立体交差していて匠の技である。
今後周囲にイベント会場、図書館、高級マンションなどなどが建ち並ぶ予定だが、取材時は先のほうまで物寂しいほどに見渡せる。大げさに言えば砂漠のオアシスといった感じ。
人智学の理念に基づいて設計された12の体験施設
そしてこの公園を何より特徴付けているのが、園内のあちこちに設置された12種類の遊具というか体験施設である。これが何なのか、ちと説明が長くなるけど、お付き合いください。
20世紀前半、ドイツの哲学者ルドルフ・シュタイナーによってはじめられた「人智学」という運動がある。オカルトに基づく真理を科学的知識をもって真摯に極めんとするもので、いかがわしいカルトの類いではない。理念に基づく教育にも熱心で「シュタイナー教育」と呼ばれ、独特な芸術教育で知られている。世界各地に日本ほか関連施設多数。
そして台中中央公園は、この人智学の理念に基づいて設計されているのである。経緯は分からないが、かなりおったまげた話である。シュタイナーは人間の感覚を五感(視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚)のみならず熱感覚、運動感覚、平衡感覚、生命感覚、言語感覚、思考感覚、自我感覚を加えた十二感覚に分類し、それぞれの育成向上に努めた。台中中央公園にある体験施設はこの12種類の感覚を体験するためのモノなのである。何か難解そうだけど、体験自体は上ったり下りたり、中で立ち止まってみたりなどなどの至ってシンプルなもの。むしろ12カ所巡っていくことのほうが難物かも。丘の上にあってなかなかたどりつけないため、いい運動にはなる。
北端の視覺體驗區(視覚体験区)から→嗅覺體驗區(嗅覚体験区)→思考體驗區(思考体験区)→生活體驗區(生活体験区)→溫度體驗區(温度体験区)→平衡體驗區(バランス体験区)→聽覺體驗區(聴覚体験区)→自我體驗區(自我体験区)→觸覺體驗區(触覚体験区)→味覺體驗區(味覚体験区)→動態體驗區(動態体験区)→談論體驗區(討論体験区)と順に南へと巡ってみた。
台湾アートの勢いを感じさせる場所
志は高いものの、床が網のフィールドアスレチックのアトラクションにありそうな「バランス体験区」や、エリア分けされた3種類の草花を巡り、植えられた3つの植物の香りの相互作用を体験するはずが季節はずれで咲いていなかった「嗅覚体験区」、まだ体験できない「味覚体験区」など、微妙な施設にもいくつか出くわした。
一方、大地へ至る窪みを持つ薄暗い室内の「思考体験区」は瞑想に良さそうだし、黄と青のカラーグラスで被われたカフェ「生活体験区」で、その色に染まりながら休憩するのも良さそうだ。
周囲を池の静寂に囲まれた狭い広場で、自ずと互いの距離が狭まり討論が進みそうな「討論体験区」、丘に円環状に並ぶ風鈴が風で鳴らされる音に耳を澄ます「聴覚体験区」、種類の異なる石柱の群れに触れて質感を味わう「触覚体験区」などなど、ちょっと意識を研ぎすませれば、興味深い体験が味わえる。
我が国にも現代アートの巨匠・荒川修作が造った驚愕のアート公園「養老天命反転地」が岐阜にあるが、あれのミニチュア体験版といったところ。「養老天命反転地」が好きならここも楽しめるはず。
こういう野心的な大公園ができてしまうあたり、今の台湾アートの勢いを感じさせる。
「中央公園遊客中心」
・9:00~17:00、無休
・台中市西屯區中科路2966號
※台中中央公園の開園時間は6:00~22:00
取材・文・撮影=奥谷道草